「節分天井・彼岸底」は本当か|「節分で売って彼岸で買い戻す」をやめる。77年分を数え直すと、節分から彼岸は“普通の6週間より少し弱い”だけで、その弱さも1990年より前に置いてきたから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

1月の相場が強かった年ほど、2月に入るとこの言葉をよく見かけます。

「節分天井・彼岸底(せつぶんてんじょう・ひがんぞこ)」——2月3日ごろの節分あたりで株価が天井をつけ、3月20日ごろの春のお彼岸あたりで底を打つ、という日本の古い格言です。

このシリーズでは、10月の暴落説やSell in Mayを、同じ検査にかけてきました。その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか。今回も同じです。

ただ、今回は1つだけ違うところがあります。これまでは第三者の集計を借りていましたが、今回は日経平均の日々の終値を77年分(1950〜2026年)手元に用意して、自分で数え直しました。そのおかげで、「何と比べて当たっているのか」を、自分で決めて測れるようになりました。

先に言っておくと、結果は「当たらない」でも「当たる」でもありません。比べる相手によって、答えが変わります。


結論:少し弱いのは本当。でも、それは1月効果の影で、1990年より前の話

  • 的中率:節分から彼岸に下がった年は、77年中40年(52%)。休場日の扱いや彼岸の取り方を8通りに変えても47〜55%。第三者の集計も44〜60%の間に収まる
  • ものさし:ただし、比べる相手は50%ではない。日経平均が普通の6週間(31営業日)で下がる確率は41%。それに比べると、節分〜彼岸は少し弱い(偶然でこれ以上偏る確率は約5%)
  • 文字どおりの天井・底ではない:1〜4月の高値が節分の前後1週間に来た年は77年中5年で、偶然の期待値(約10年)より少ない。高値はいちばん多いのが4月、安値は1月
  • 時期:弱さはほぼ1990年より前に集中している。その時代は1月が非常に強かった。節分天井の正体は「1月に上がりすぎた分の息切れ」で、1月効果が弱まると一緒に目立たなくなった
  • 持ち帰り:節分で売っても、彼岸までの平均は**+0.65%で、現金より上。日付で降りず、日付で入らない。2〜3月に確かめるべき日付は、格言の日ではなく持ち株の決算発表日・3月のSQ・権利付最終日**

第1部:「節分天井・彼岸底」を3つに分ける

この格言にも、3つの主張が混ざっています。

  1. 節分のあたりが天井になる
  2. 彼岸のあたりが底になる
  3. だから節分〜彼岸は下がりやすく、節分で売って彼岸で買い戻すのが得だ

よく引用される検証は、ほとんどが3だけを見ています。「節分の終値と彼岸の終値を比べて、下がっていれば的中」という数え方です。まず、その数え方から確かめます。


第2部:大きさ——どう数えても、当たるのは5割前後

第三者の集計を並べると、こうなります。

集計期間結果
ニッセイアセットマネジメント1999〜2018年上昇は50%、平均+2.01%
三菱UFJ eスマート証券 カブヨム2010〜2019年上昇6回・下落4回、平均+2.97%
ideco-ipo-nisa.com2008〜2025年的中8回・外れ10回(44%)
Money Magazine2010〜2026年下落9回・上昇8回、平均+0.12%

筆者の集計(1950〜2026年の77年)では、節分(2月3日。休場なら直前の営業日)の終値より、彼岸(春分の日。休場なら直前の営業日)の終値が安かった年は**40年、52%**でした。

この格言は、数え方の自由度が大きい格言です。節分が土日なら前の営業日か次の営業日か、彼岸は春分の日か、お彼岸が明ける日か、お彼岸の7日間の最安値か。これを組み合わせて8通りで数え直しても、的中率は46.8〜54.5%にしか散りません。定義によって判定がひっくり返る年は、77年中8年だけです(2022年はその1つで、資料によって「的中」と「外れ」が分かれています)。

数え方をどう選んでも、コイン投げから大きく離れない。 まずは、ここまでが「当たらない」という、よく見る結論です。

「8割5分」はどこから来たか

一方で、「確率8割5分」という集計もあります。1993〜2018年のうち、節分の時点で前年末より5%以上下がっていた年に絞ると、お彼岸の7日間のどこかで節分の終値を下回った年が7回中6回だった、というものです。

筆者が同じ条件で数え直すと7回中5回、1951〜2026年に広げると10回中7回(70%)でした。条件をつけない場合(76年中42年=55%)と比べて、7回中6回が偶然で出る確率は約14%、10回中7回なら**約53%**です(筆者の試算)。

しかも「7日間の最安値が節分を下回ったか」という数え方は、そもそも当たりやすい作りです。日経平均の普通の31営業日でも、その先7日間の最安値が出発点を下回る確率は**約50%**あります。条件を絞り、当たりやすい数え方を選べば、高い的中率はいくらでも作れます。新高値銘柄の探し方で書いた「条件を何通りも試すと、実力ゼロでも“効いて見える”」と同じ形です。


第3部:ものさし——「5割」と比べるのが間違い

ここからが、自分でデータを持った意味のあるところです。

「当たるのは52%、だからコイン投げ」という結論には、1つ前提が隠れています。株価は、普通なら上がるのも下がるのも五分五分という前提です。

でも、実際は違います。1950年以降の日経平均で、任意の日から31営業日後(節分から彼岸までの平均的な日数)の値段を比べると、上がっていたのは59.3%、下がっていたのは**40.7%**でした。長い目で見て右肩上がりの指数では、「下がった」は5割より起きにくい出来事です。

この「普通の6週間」をものさしにすると、77年中40年は意味が変わります。

  • 普通の6週間なら、77年中で下がるのは約31年のはず
  • 節分〜彼岸で実際に下がったのは40年。普通より9年多い
  • 偶然でこれ以上偏る確率は約4.9%(筆者の試算)

つまり、「節分〜彼岸は、普通の6週間より少し弱い」は、統計の目安ぎりぎりで本物です。「5割だから当たらない」と切り捨てた結論は、ものさしを間違えていました。

それでも、売る理由にはならない

ただし、「Sell in May」は本当かで確かめたとおり、売る判断で比べる相手は「普通の6週間」ではなく現金です。

  • 節分〜彼岸の平均騰落率:+0.65%(中央値は−0.20%)
  • 普通の31営業日の平均:+1.31%

節分〜彼岸は普通より弱いものの、平均ではまだプラスです。差の0.66ポイントも、年ごとのブレ(標準偏差8.24%)に比べると小さく、偶然と区別がつきません(t値−0.70)。この差を統計的に見分けるには、ざっと600年分のデータが要る計算です。

建玉37万5,000円で言えば、節分〜彼岸の平均の値上がりは約2,400円、普通の6週間なら約4,900円。その差の約2,500円に対して、1年ごとのブレは±約3万900円です。数え方を正しくすると、弱さは見えてくる。でも、それは売買の判断を左右する大きさではありません。


第4部:「天井」と「底」は、文字どおりなのか

次に、第1部の1と2——節分が本当に天井で、彼岸が本当に底なのかを見ます。第2部・第3部の数え方は「節分より彼岸が安いか」だけで、天井か底かは確かめていません。

1〜4月のうち、終値でいちばん高かった日が節分の前後5営業日に入っていた年は、77年中5年でした。1〜4月はおよそ81営業日あるので、高値の日がでたらめに来るなら約10年は入るはずです。節分は、天井になりやすいどころか、少しなりにくい。

1〜4月の高値がいちばん多く来たのは4月(39年)、安値は1月(38年)でした。上げ相場の年は4月に高値、下げ相場の年は4月に安値がつく。高値と安値の位置を決めていたのは、季節ではなくその年のトレンドです。これはSell in Mayの「夏の符号を決めていたのは、月ではなくトレンド」と同じ形です。

彼岸のほうも、1〜4月の安値が彼岸の前後5営業日に入った年は9年で、偶然の期待値(約10年)とほぼ同じです。

平均の「形」は、たしかにある

一方で、平均の道のりを描くと、格言らしい形が出ます。マネックス証券の吉野貴晶氏は、1950〜2025年の76回を平均し、「節分に向けて上昇し、節分後は横ばい」「春分の日の約5営業日前にかけて下落し、その後持ち直す」と報告しています。

筆者の集計でも、21営業日(約1か月)ずつ区切ると同じ形が出ます。

区間平均騰落率普通の21営業日との差(t値)
節分の前の1か月+2.45%+1.56pt(2.04)
節分の後の1か月+0.52%−0.37pt(−0.53)
彼岸の前の1か月+0.01%−0.88pt(−1.06)
彼岸の後の1か月+1.71%+0.82pt(1.24)

※普通の21営業日の平均は+0.89%

「上がって、止まって、下がって、戻る」。形は格言どおりです。ただ、統計の目安(t値2前後)に届いているのは節分の前の1か月だけで、それは「節分が天井」ではなく**「1月が強い」**という話です。彼岸の前の下げ(−0.88pt)を本物と見分けるには、約260年分のデータが要ります。


第5部:時期——弱さは、1990年より前に置いてきた

では、第3部の「少し弱い」はいつの話なのか。77年を1990年で2つに分けます。

1950〜1989年(40年)1990〜2026年(37年)
節分の前の1か月+4.77%(t値3.39)−0.07%(t値−0.40)
節分〜彼岸で下がった年20年(50%)20年(54%)
普通の31営業日で下がる確率35.1%46.8%
偶然でこれ以上偏る確率約6.7%約41%

1990年より前は、1月が非常に強い時代でした。節分までの1か月で平均+4.77%。その後の6週間が五分五分に戻ると、普通の6週間(下がるのは35%)より「弱く」見えます。節分天井の正体は、1月に上がりすぎた分の息切れだった、と読むのが自然です。

1990年以降は、1月の強さが消えました(節分の前の1か月は−0.07%)。それとともに、節分〜彼岸の弱さも、普通の6週間と区別がつかなくなっています。1月は上がりやすいのかで、日本の1月効果は「課税化のあとに上げ確率が下がった」と書きました。節分天井は、その1月効果の影だったことになります。

吉野氏は彼岸前の下げの理由として、年度末に向けたポジション調整や利益確定の売りを挙げています。3月決算の会社が多い日本らしい説明で、筆者もありうると思います。ただ、この記事のデータでは確かめていません。

記憶を作っているのは、数年の大きな下げ

もう1つ、格言が記憶に残る理由があります。節分〜彼岸の下落率の大きい年を並べると、

  • 2020年:−27.9%(新型コロナの世界的な広がり)
  • 1953年:−20.9%(3月5日のスターリン死去の報による急落)
  • 1990年:−18.2%(バブル崩壊の始まり)
  • 1995年:−13.0%(阪神・淡路大震災の後の円高)
  • 2011年:−11.7%(3月11日の東日本大震災)

どれも、たまたまその6週間に起きた出来事です。1990年以降の平均(+0.14%)も、2020年を1年除くだけで**+0.92%**になり、普通の31営業日(+0.49%)を上回ります。「10月は暴落しやすい」は本当かで、10月の暴落説が3回分の記憶だったのと同じ構造です。


第6部:実務——格言の日付で降りず、自分の銘柄の日付を見る

持ち帰りは3つです。

1. 的中率を見たら、「何と比べた5割か」を確かめる。

「52%だから当たらない」も、「8割5分当たる」も、比べる相手を書いていません。右肩上がりの指数では、普通の期間でも「下がる」は4割しか起きません。逆に「8割5分」は、条件を絞って当たりやすい数え方を選んだ数字でした。確率を見たら、普通の期間なら何%かを横に置いてから判断します。

2. 節分で降りない。彼岸で入らない。

節分〜彼岸の平均は+0.65%で、現金より上です。節分に全部降りるのは、平均すれば値上がりを手放す判断です。逆に、彼岸を「底だから買う日」にするのも、入口の条件に月の名前を入れないのと同じ理由でやめます。日付は全銘柄に同時に成り立つので、候補を選り分けません。降りる理由は、銘柄ごとの損切り価格とトレンドの崩れです。指数全体のブレが広がったなら、現金比率で少しずつ縮めます。

3. 2〜3月に確かめる日付は、格言の日ではなく、制度と決算の日。

この時期、持ち株の値動きに本当に効いてくる日付は別にあります。

格言の日付は全員に同じですが、この3つは銘柄ごとに意味が変わります。選り分けに使える日付だけを、予定表に入れます。


第7部:自分に不利な材料

  1. 「少し弱い」は、5%水準でぎりぎり本物です。第3部で示したとおり、普通の6週間と比べると、77年中40年は偶然では出にくい偏りです。「節分天井は迷信」とまでは言えません
  2. 平均の形は、何度数えても格言どおりに出ます。吉野氏の76回の平均推移も、筆者の21営業日の区切りも、「上がって、止まって、下がって、戻る」を示しています。どれも単独では統計の目安に届きませんが、向きは一貫しています
  3. 彼岸の後の1か月は、普通より強めです。平均+1.71%、77年中50年で上昇(65%)でした。しかも3月末の配当の権利落ち(日経平均は配当を含まない価格指数なので、その分だけ下がる)をまたいだうえでの数字です。「彼岸底」の“買い”の側は、弱いながら筋が通っています
  4. 1990年以降の弱さが消えたのは、2020年を除いた場合の話です。大きな下げが2〜3月に来た年は、1990年以降にも2020年・2011年・1995年・1990年とあります。「6週間のうちに大きな出来事が来たら、ひとたまりもない」こと自体は、格言の季節に限らず本当です
  5. 1990年で区切ったのは筆者の選択です。区切りの年を動かせば、時期の結論の強さも変わります。第2部で批判した「数え方の自由度」は、この記事にもあります

留保

  • 集計に使った日経平均の終値は、日本経済新聞社の公表値を米セントルイス連銀(FRED)経由で取得したものです。的中率・平均・t値・二項検定・必要年数・建玉の換算は、すべて筆者が計算したものです
  • 節分は毎年2月3日として扱いました。実際の節分は2月2日や2月4日の年もあります(2021年と2025年は2月2日)。春分の日は計算式で求めた日付を使いました
  • 「普通の31営業日」「普通の21営業日」は、1950年以降のすべての営業日を出発点にした値で、期間が重なり合っています。t値は年ごとの標準偏差から求めた簡易的なもので、厳密な検定ではありません
  • 第三者の集計は、節分・彼岸の日付の取り方、休場日の扱い、判定基準がそれぞれ違います。同じ年でも採用する値が違うため、数値を直接比べることはできません
  • 日経平均は配当を含まない価格指数です。3月末の権利落ちの分だけ、彼岸後の数字は実際の保有者の損益より低く出ます
  • 年度末の売りや1月効果との関係は、筆者の解釈で、因果を確かめたものではありません
  • 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではありません

次に読む

  • 「Sell in May」は本当か(記事061)——売る判断で比べる相手は「冬」ではなく「現金」、という同じ型
  • 1月は上がりやすいのか(記事050)——節分天井の正体だった1月効果と、それが弱まった経緯
  • 「10月は暴落しやすい」は本当か(記事060)——数年分の大きな下げが、季節の記憶を作る仕組み
  • 新高値銘柄の探し方(記事042)——条件を何通りも試すと、実力ゼロでも「当たって見える」計算
  • 「決算シーズンは荒れる」は本当か(記事059)——カレンダーの中で、入口の条件に入れてよい唯一の日付

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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