「SQ週は荒れる」は本当か|「SQ週は様子見」をやめる。SQ週の値幅は通常週の1.06〜1.08倍しかなく、決済がいちばん大きいメジャーSQ週は、平均すると下がってもいないから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

毎月、第2金曜日が近づくと同じ言葉を目にします。

「今週はSQ週なので荒れやすい」「魔の水曜日に注意」

この言葉を見て、SQ週は新規を見送り、含み益の小さいポジションは先に外しておく——という運用をしている人は少なくないと思います。根拠を聞かれたら「先物とオプションの決済があるから」と答えるはずです。

でも、それで何円得をしたのかを数えたことがある人は、あまりいないのではないでしょうか。

1月は上がりやすいのかと年始に新しいお金が入るから上がる、は本当かで使った検査——説明に使われている原因は、現象を作れるだけの大きさと向きを持っているか——を、今度はカレンダーの「週」にかけてみます。


結論:荒れ方は小さく、弱さの向きは説明と逆

  • 「荒れる」は大きさが足りない。2000〜2026年の日経平均で、SQ週の1週間の平均値幅は通常週の1.06〜1.08倍。差は0.12〜0.17ポイントで、建玉37.5万円なら約640円=往復コストの下限1回ぶんとほぼ同じ
  • 「下がる」は向きが逆。決済が最も大きい**メジャーSQ週は平均−0.03%でほぼ通常どおり。弱く見えるのは決済の小さいマイナーSQ週(−0.51%)**のほう
  • 弱さの中身は「負ける回数」ではなく「負けた週の大きさ」。勝率の差は統計的に意味のある差ではなく、平均を押し下げているのは少数の大きな下落週
  • 「魔の水曜日」は数え方の問題。よく引かれる「4勝8敗」は、コインを12回投げても**19%**の確率で出る
  • 持ち帰りは1つ。損切り幅や現金比率は、カレンダーの名前ではなく実際のブレ幅で動かす

第1部:SQとは何か、なぜ「荒れる」と言われるのか

SQ(特別清算数値)は、日本取引所グループの用語集では**「株価指数先物取引の最終決済や株価指数オプションの権利行使の際に利用される数値」と定義されています。日経225先物・オプションの場合、毎月の第2金曜日**に、構成銘柄の寄り付きの価格から算出されます。取引の最終日はその前営業日(通常は木曜日)です。

  • メジャーSQ:3・6・9・12月。先物(ラージ・ミニ)とオプションがまとめて決済される
  • マイナーSQ:それ以外の月。オプションと、毎月限月のある日経225miniなどが決済される

「荒れる」とされる理由は、おおむね次の2つです。

  1. ロールオーバー:満期を迎える先物を決済し、次の限月へ乗り換える売買が集中する
  2. 裁定取引の解消:先物と現物の価格差を使ったポジションを、満期前に解消する売買が現物に出る

どちらも「決済にともなう売買が集中するから値が飛ぶ」という説明です。ということは、決済の量が大きいほど効果も大きくなるはず。ここが検査のポイントになります。


第2部:大きさ——値幅は通常週の1.06〜1.08倍

材料は、株の教科書(西村剛氏)が2026年版として公開している検証です。日経平均を対象に、2000年1月〜2026年4月の各週を「月曜の始値で買って金曜の終値で売る」として集計しています。

区分件数勝率平均損益PF
非SQ週86952.9%+0.08%1.079
マイナーSQ週16447.6%−0.51%0.627
メジャーSQ週10552.4%−0.03%0.974

この表には「値幅」そのものは載っていません。ただ、勝率・平均損益・PF(勝ち合計÷負け合計)の3つがあれば、平均の勝ち幅と負け幅を逆算できます。

  • 平均損益 = 勝率×平均勝ち − 負け率×平均負け
  • PF =(勝率×平均勝ち)÷(負け率×平均負け)

この2式を解くと、**1週間で動いた幅の平均(上下を問わない)**が出ます。

区分平均勝ち平均負け平均値幅非SQ週との比
非SQ週2.07%2.15%2.11%1.00
マイナーSQ週1.80%2.61%2.22%1.06
メジャーSQ週2.15%2.42%2.28%1.08

SQ週のほうが荒れている、というのは方向としては正しい。ただし差は0.12〜0.17ポイントです。通常の週でも日経平均は平均2.1%動いていて、SQ週はそこに0.1〜0.2%上乗せされる程度にすぎません。

エントリー前チェックリストで使っている建玉375,000円に当てはめると、0.17ポイントは約640円。手数料ゼロ時代の実効コストで計算した往復コストの下限(0.1661%=623円)とほぼ同じです。SQ週を避けるために1回降りて乗り直すと、避けたかった「荒れ」の分をそのまま手数料で払う計算になります。

日本の満期日効果を扱った学術研究も、同じ方向の結論です。Karolyi (1996, Journal of Derivatives) は、満期日の売買代金は平均より多いものの、満期日の引け前後の値動きの荒さは「わずかに大きい」程度で、満期にともなう価格の戻りは0.1%以下、しかも統計的に有意ではなく、売買のスプレッドや手数料より小さいと報告しています。


第3部:向き——決済が大きい週のほうが、下がっていない

いちばん強い反証はここです。

第1部で見たとおり、SQ週の説明は「決済の売買が集中するから」でした。だとすれば、先物もオプションもまとめて決済されるメジャーSQ週のほうが、効果は大きく出るはずです。

ところが結果は逆でした。

  • メジャーSQ週:平均−0.03%。非SQ週(+0.08%)との差は−0.11ポイントで、統計的にはまったく区別がつかない(筆者の概算で t≈−0.4)
  • マイナーSQ週:平均−0.51%。決済の小さい週のほうが弱い

説明が予測する大小関係と、観測された大小関係が反対を向いています。 マイナーSQ週に何かがあるとしても、それは「決済の大きさ」では説明できない何かです。

もうひとつ。裁定取引の解消には、そもそも決まった向きがありません。裁定買いの残高を解消すれば現物は売りに、裁定売りの残高を解消すれば買いになります。2019年末の裁定買い残は8,563億円、売り残は7,131億円と拮抗していました。「解消の売買が出る」ことは言えても、「だから下がる」とは言えないのです。

新高値銘柄の探し方で書いた「量には方向がない」と同じ形です。決済の量はあっても、決済そのものに方向はない。


第4部:マイナーSQ週の−0.51%は何なのか

では、マイナーSQ週の弱さは偶然なのか。ここは正直に書きます。偶然だけでは片付けにくい数字です。

平均の差(−0.59ポイント)を、第2部で逆算した値幅から概算した標準誤差で割ると、t≈−2.5。ばらつきを2割大きく見積もっても t≈−2.1 で、慣習的な基準(2前後)を超えています。

ただし、中身を見ると性質がはっきりします。

  • 勝率の差は有意ではない。47.6%と52.9%の差は、件数を考えると偶然でも21%の確率で出る
  • 差が出ているのは負け幅。平均負けが非SQ週2.15%に対し、マイナーSQ週は2.61%

つまり「マイナーSQ週は負けやすい」のではなく、**「マイナーSQ週に、たまたま大きな下落週がいくつか入っている」**という形です。

たとえば2008年10月の第2週。金曜の10月10日はマイナーSQ(10月限)で、日経平均は前週末の10,938円から8,276円へ、1週間で約24%下がりました。リーマン・ショック直後の暴落週が、カレンダーの都合でたまたまSQ週に当たっていた。この1週だけで、164件の平均を約0.15ポイント押し下げます。除けば平均は**−0.37%前後**です。

それでも少しマイナスは残ります。ただ、この残りを「SQのせい」と呼ぶ根拠は、第3部で見たとおり向きが合わない以上、いまのところありません。


第5部:「魔の水曜日」は、数え方の問題

「SQ週の水曜日は下がりやすい」という話もよく聞きます。最終売買日の木曜ではなく、その前日にポジションの整理が出るから、という説明です。

根拠として引かれる数字を1つ見てみます。2019年のSQ週の水曜日は4勝8敗。確かに負け越しています。

では、上がる確率も下がる確率も五分五分のコインを12回投げて、表が4回以下になる確率はどれくらいか。**約19%**です。5回に1回はこの程度の偏りが出ます。

しかも「水曜日」は、月曜から金曜の5つの曜日のうち、結果を見てから選ばれた曜日です。5つの曜日のどれかが4勝8敗以下になる確率はさらに高くなります。事後的に一番負けている曜日に名前をつければ、どの年にも「魔の○曜日」は作れる。

もう1点、時期の話を足しておきます。2015年5月から2023年5月まで、日経225にはWeeklyオプションがあり、第2金曜日以外の毎週金曜日にも満期がありました。「決済が値動きを作る」なら、その8年間は普通の週にも小さなSQ効果が出ていたはずです。検証の分類はこの点を区別していないので、ここは次回の宿題として残します。


第6部:実務——カレンダーではなく、ブレ幅で動かす

持ち帰りは次の3つです。

1. SQ週だからといって、損切り幅や建玉を変えない。

値幅の差は0.12〜0.17ポイント、通常週の6〜8%増しです。損切りラインの決め方で決めた幅を、この程度の差で動かす理由はありません。

2. 動かすなら、名前ではなくブレ幅で。

相場が崩れた時の現金比率で書いたとおり、ポジションを減らす理由は「怖いから」ではなく「ブレ幅が広がったから」です。SQ週でも実際のブレ幅が広がっていなければ減らさない。逆に、SQ週でなくてもブレ幅が広がっていれば減らす。**カレンダーの名前はブレ幅の代わりになりません。**本物のブレ幅は、すでに値動きに出ています。

3. 入口の条件にカレンダーを入れない。

「SQ週は見送り」は全銘柄に同時に成立する条件なので、銘柄を選り分ける働きをしません。1月は上がりやすいのかで月の名前について出した結論と同じで、週の名前も入口の条件に入れる意味がないと思います。


第7部:自分に不利な材料

  1. マイナーSQ週の弱さは残ります。2008年の暴落週を除いても平均は−0.37%前後で、非SQ週より弱い。仮にこれが今後も続くなら、往復コスト(0.166%)を払ってでもマイナーSQ週だけ降りるほうが、指数ベースの計算上は得になります。私がそうしないのは、原因の説明がない数字は、いつ消えても気づけないからです
  2. 値幅は逆算による近似です。平均値幅から標準偏差への換算は正規分布を仮定しています。株価の週次リターンは裾が厚いので、実際のばらつきはもっと大きく、t値はもっと小さくなるはずです
  3. 1つの検証に依存しています。条件(月曜始値→金曜終値)を変えれば数字は変わります。また検証の総件数は1,138週で、2000年1月〜2026年4月の暦上の週数(約1,370)より少なく、マイナーSQ週も暦上の約210回に対して164件です。除外条件は公開情報からは確認できませんでした
  4. 指数の話です。個別株、とくに先物の裁定対象になりやすい値がさ株は、指数とは別の動き方をする可能性があります
  5. SQ当日の寄り付きには、Karolyiも認めるとおり売買代金の集中があります。SQ日の寄り付きで成行注文を出すと、スリッページは通常より大きくなりえます。これは「週」ではなく「その日の寄り付き」の話として分けて扱うべきです

留保

  • 平均値幅・t値・二項確率・建玉換算は、公表された勝率・平均損益・PFから筆者が逆算・試算したものです。元データ(週次リターンの系列)は確認していません
  • 2008年10月の週の下落率は終値ベース(前週末比)で、検証の条件(月曜始値→金曜終値)とは一致しません。平均への寄与(約0.15ポイント)は概算です
  • 「魔の水曜日」の4勝8敗は2019年の1年分の数字で、ほかの年の成績は確認していません
  • Karolyi (1996) は1990年代前半までのデータで、現在の市場構造(ミニ・マイクロ先物、夜間取引)とは異なります
  • 本記事は特定の時期の売買や、特定のデリバティブ取引を推奨するものではありません

次に読む

  • 1月は上がりやすいのか(記事050)——「説明に使われている原因は、現象を作れるか」という検査の出発点
  • 年始に新しいお金が入るから上がる、は本当か(記事056)——同じ検査を「向き」で行った回
  • 相場が崩れた時の現金比率(記事036)——ポジションを減らす理由はブレ幅で決める
  • 手数料ゼロ時代の実効コスト(記事045)——降りて乗り直すたびに払っているもの
  • スリッページは自分の記録でしか測れない(記事055)——SQ日の寄り付きの成行注文で失うもの

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。先物・オプション取引には元本を超える損失が生じるリスクがあります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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