年始に新しいお金が入るから上がる、は本当か|「新規資金の流入」をやめる。日本株に入る年初の新規資金は売買代金の1〜2%で、しかも同じ時期に個人は1.5兆円を売り越しているから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

1月は上がりやすいのかで、私は「年末の節税売りの反動」という説明を検算して、こう結論しました。

「合理的な節税売りは、1月の値動きを作れるだけの大きさを持っていない」

ただ、あの記事は説明をひとつしか扱っていません。1月が強いとされるもうひとつの理由——「年が明けると新しい資金が入ってくるから」——には手をつけずに終わりました。宿題の回収です。

先に結論を書きます。

年初の資金流入は実在します。額も過去最大です。ただ、そのお金は日本株をほとんど買っていません。


結論:大きさは足りず、向きは逆で、時期も合わない

  • 流入は本物。2026年1月の公募株式投信への純資金流入は2兆7,507億円で過去最大だった
  • ただし日本株ぶんは13.0%。国内株式型への流入は3,564億円。これはプライム市場の1日平均売買代金の4.65%=立会時間に直すと約14分ぶん
  • 個別株の買付を足しても片側売買代金の1.1〜1.7%。市場を動かす側ではなく、動かされる側の大きさ
  • 向きが逆。同じ年初、個人は現物を約1.5兆円売り越していた。買い越していたのは海外投資家(約3.9兆円)と事業法人(約1.3兆円)
  • 時期も合わない。1月効果が統計的に観測されていたのは1971〜1989年。NISAも今の投信市場も存在しない時代で、制度が揃った後のほうが1月の勝率は下がっている(62%→53%→50%)
  • 持ち帰りは質問3つ。「資金が入る」と聞いたら①誰の ②いくら ③どこへ。3つとも答えられない説明は、需給の話ではなく季節の話

第1部:「資金が入る」は3つの主張に分けられる

「新規資金の流入」という言葉は、実は3つの別々のことを一度に言っています。

主張検算の方法
①いくら入るのか流入額 ÷ その月の売買代金
②どこへ入るのか資産クラス別の内訳
③誰が買うのか投資部門別の売買動向(符号)

この3つは独立です。額が大きくても行き先が外国株なら日本株は動かないし、行き先が合っていても同じ月に別の主体が同額を売れば打ち消されます。

新高値銘柄の探し方で「注意には方向がない」と書いたのと同じ形です。買付額には方向がなく、売り越し・買い越しには方向がある。


第2部:いくら——1日の売買代金の14分ぶん

2026年1月の公募投信は、報じられたとおり記録ずくめでした。

  • 純資金流入:2兆7,507億円(過去最大。前年同月は2兆1,212億円)
  • 設定:5兆8,823億円(過去最大)
  • 解約・償還:3兆1,317億円

まず、ここに最初の落とし穴があります。「入ってきた額」として語られるのは設定5兆8,823億円のほうですが、その53.2%は解約で打ち消されています。 純流入は設定の46.8%しかありません。

そして肝心の内訳です。純流入2兆7,507億円のうち、国内株式型は3,564億円(12.96%)。

同じ月、プライム市場の1日平均売買代金は7兆6,646億円でした。

  • 3,564億円 ÷ 7兆6,646億円 = 4.65%
  • 立会時間5時間(300分)に直すと = 約14分ぶん

ひと月ぶんの新規資金が、1日の14分です。

個別株の買付も足しておきます。2025年のNISA買付は18.7兆円で、うち成長投資枠が12.5兆円、その41.2%が国内株式=年5兆1,500億円。月割りで4,292億円、年初に2倍集中していたとしても8,583億円です。投信ぶんと合計して、1月の片側売買代金(1日平均×19営業日÷2=約72.8兆円)に対して1.1〜1.7%。

新NISAで需給は変わったのかで年ベースを計算したときの0.97〜1.17%と、ほぼ同じ桁に落ち着きます。年初に集中させても桁は変わらない。


第3部:どこへ——日本の家計の新規資金は、日本株を買っていない

行き先の内訳のほうが、額よりも決定的です。

2026年上半期の追加型株式投信への資金流入は12兆4,600億円。その内訳は、

  • 外国株式:8兆3,500億円
  • 国内株式:1兆8,200億円

4.6倍です。2025年1月も同じで、外国株式ファンドへの流入1兆9,600億円が当時の過去最大でした。

つまり「年始に家計から出てくる新しいお金」は実在するのですが、その大半は海外の株式を買うのに使われています。日本の1月の日本株の値動きを説明する材料としては、最初から対象外です。


第4部:誰が——年初に買っていたのは個人ではない

いちばん強い反証は、符号です。

2026年1月第1週から2月第2週までの現物の売買動向は、こうなっていました。

主体現物
海外投資家+約3.9兆円(6週連続の買い越し)
事業法人+約1.3兆円
信託銀行▲約1.8兆円
個人▲約1.5兆円
投資信託▲約0.3兆円

年初の上昇を主導していたのは海外投資家と事業法人で、個人は売り越し。しかも売り越した額は、同じ時期に国内株式型投信へ入った3,564億円の4.2倍です。

事業法人の買いの正体はおおむね自社株買いで、これは新NISAで需給は変わったのかで行き着いた結論と同じです。需給を実際に動かしているのは、個人の新規資金ではない。

そして個人が売り越すこと自体は、「個人は逆張り」は本当かで見たとおり、上がったら売る人が多数派だからです。年初に株価が上がるなら、個人はむしろ売る側に回る。 「新規資金が入るから上がる」という説明は、向きが逆になっています。


第5部:時期——制度が揃う前のほうが、1月は強かった

1月は上がりやすいのかで使った検査をもう一度かけます。説明に使われている原因が存在しなかった時期に、現象のほうは存在したか。

年初に資金が入る経路は、どれも最近のものです。

経路開始
確定拠出年金2001年
NISA2014年1月
つみたてNISA2018年1月
新NISA(枠が毎年1月に復活)2024年1月

一方、日本の1月効果が統計的に有意だと報告されていたのは1971年1月〜1989年3月のサンプルです(Campbell & Hamao)。上の表のどれも存在しません。

そして日経平均が1月に上昇した確率は、1976年以降で62%、1990年以降で53%、2008年以降で50%。経路が整うほど弱くなっている。 説明の予測する向きと逆です。


第6部:実務——3つの質問と、月の名前

持ち帰りは2つだけです。

1. 「資金が入る」と聞いたら、3つ質問する。

  • 誰のお金か(家計か、海外か、自社株買いか)
  • いくらか(その月の売買代金の何%か)
  • どこへ行くか(日本株か、外国株か、投信の中でどの資産か)

3つとも答えられない説明は、需給の話ではなく季節の話です。

2. 入口の条件に月の名前を入れない。

1月は上がりやすいのかと同じ結論ですが、理由がひとつ増えました。季節を条件にすると、全銘柄に同時に成立してしまうので、銘柄を選り分ける働きをしない。 エントリー前チェックリストの役割は候補を減らすことなので、減らさない条件はチェックリストに入れる意味がありません。

そして——仮に年初に本当に買いが入るのだとしても、入ったならそれは値動きに出ます。新高値と出来高で見ればいいので、カレンダーで前もって賭ける必要がない。順張りにとって、季節性は使う理由がないというより、使う場所がないのだと思います。


第7部:自分に不利な材料

  1. 海外投資家の年初の買いは実在します。3.9兆円は小さくありません。「年初に買いが入る」という観測自体は正しく、私が否定しているのは「それが個人の新規資金だから起きる」という因果のほうです
  2. 1年分のデータで一般化しています。2026年の年初は日本株が強かった年で、この符号が毎年出るわけではありません
  3. 投資部門別の期間が1月ちょうどではありません(1月第1週〜2月第2週の6週間)。1月だけを切り出せば数字は変わります
  4. 金額が小さいことは、影響がゼロという意味ではありません。新NISAの記事で自分から出したとおり、需給の乗数を大きく見積もる研究もあります。ただしその場合、符号が逆であることの重みも同じだけ増します
  5. つみたて投資の資金は値動きと無関係に毎月入り続けます。年初に一括する層がいるという観測もあり、1月の買付が他の月より多いこと自体は否定しません

留保

  • プライム市場の月間売買代金は、**1日平均7兆6,646億円×19営業日(筆者のカウント)**で計算した概算です。片側にするための「÷2」も既存記事と揃えた便宜的な処理で、公表ベースで見れば比率はさらに半分になります
  • NISAの月別内訳は公表されていません。「年初に2倍集中」は筆者が置いた仮定です
  • 投信の資産クラス分類は集計元によって定義が異なります。国内株式型・内外株式型の線引きは報道ベースのものです
  • 1月の勝率(62%/53%/50%)は、050で書いたとおり統計的に有意といえる標本数ではありません。弱くなっている「ように見える」以上のことは言えません
  • Campbell & Hamao の原論文は未取得で、050で使った引用をそのまま用いています
  • 本記事は特定の投資主体の売買や、特定の時期の売買を推奨するものではありません

次に読む

  • 1月は上がりやすいのか(記事050)——この記事の出発点。節税売り説のほうの検算
  • 新NISAで需給は変わったのか(記事053)——年ベースの流入額と、事業法人の買い
  • 「個人は逆張り」は本当か(記事054)——年初に個人が売り越す理由
  • 新高値銘柄の探し方(記事042)——「量には方向がない」という同じ形の話
  • エントリー前チェックリスト10項目(記事033)——条件は候補を減らすためにある

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資には元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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