新高値銘柄の探し方|「毎日ランキングを見る」をやめる。それは順張りではなく“注意ベース買い”だから
本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・情報サービス・スクリーニング条件を推奨するものではなく、記載の数値は目安および過去データに対する計算上の仮定です。投資判断はご自身の責任でお願いします。
リード
夜、スマホで値上がり率ランキングを開く。新高値更新の一覧を眺める。気になった銘柄をタップして、チャートを見る。
——この30分は、銘柄を探している時間でしょうか。
私はずっとそう思っていました。探しているのだから、たくさん見たほうがいい。毎日見たほうがいい。 そう考えて、見る時間を増やしてきました。
ところが、個人投資家の実際の売買記録を分析した研究を読んで、この前提が崩れました。個人の買いは**「注意を引いた銘柄」に強く偏ること。そして、その偏りは上がった銘柄でも下がった銘柄でも同じように起きる**こと。
つまり——注意には方向がありません。順張りには方向があります。
ランキングを毎日眺める習慣は、順張りの手順に見えて、実際には別のものを実行しています。この記事では、そのズレを研究データで確認したうえで、探す場所を週末の20分に固定する手順を具体化します。
結論:スクリーニングは「見つける」道具ではなく、「見る銘柄を先に決めておく」道具
- 個人投資家の買いは注意(目立ったこと)に引っ張られる。しかも上げでも下げでも引っ張られる
- ランキング画面が並べているのは、研究で使われている注意の代理指標そのもの(異常出来高・極端な前日リターン・ニュース)
- だから対策は「もっと良い画面を探す」ではなく、開く画面を減らして、条件を先に固定する
- 条件は毎週いじらない。いじると、実力ゼロでも「良く見える条件」が必ず見つかる(後半でシミュレーション)
- 週末20分・上限5銘柄・候補ゼロの週があっていい
この記事は 週次ルーティン の「週末60分のうちスクリーニングの20分」の中身にあたります。条件そのもの(何%で線を引くか)は 52週高値スクリーニングの具体的条件 で扱ったので、ここではその条件を、いつ・どこで・どの順番で回すかに絞ります。
第1部:まず母数を見る
3,709社を「探す」ことはできない
東証の上場会社数は、2026年8月13日時点でプライム1,550社・スタンダード1,561社・グロース598社、合計3,709社です(TOKYO PRO Marketの185社を含めると3,894社)。これは日本取引所グループが毎営業日更新している数字です。
この3,709社を、兼業投資家が毎日「見る」ことは物理的にできません。だから何らかの形で絞ることになります。問題は、その絞り方が2種類あることです。
| 絞り方 | 誰が絞ったか | |
|---|---|---|
| A:ランキング/一覧を見る | 何かが起きた銘柄が、向こうから浮かんでくる | 相場(と、そのサイトの並べ方) |
| B:条件を通す | 自分で決めた条件を満たす銘柄だけが残る | 自分(しかも事前に) |
見た目はどちらも「候補リストが出てくる」で同じです。かかる時間もそれほど変わりません。違うのは、絞った主体が誰かという一点だけです。
そして、この一点が成績に効いてくる——というのが、次に見る研究です。
「買い」だけが検索問題になる
その前に、ひとつ非対称性を確認しておきます。
売るときには、探す必要がありません。 自分が持っている数銘柄の中から選ぶだけだからです。ところが買うときには、3,709社が候補になります。
Barber & Odean (2008) は、この非対称性を出発点にしています。彼らの言い方では、注意に引っ張られた買いが起きるのは、投資家が買える何千もの銘柄を探すことの難しさから生じる。売るときは自分が保有している銘柄しか売らないので、同じ探索問題に直面しない——。
買いだけが検索問題。だから、買いの手順だけが特別に設計を必要とします。エントリー前チェックリスト が「入る前」だけのチェックリストになっているのと同じ理由です。
第2部:ランキング画面の正体(この記事の核)
研究が使った「注意の代理指標」は3つ
Barber & Odean (2008) は、ある日にどの銘柄が投資家の注意を引いたかを直接は測れないので、3つの観測可能な指標で代用しました。
- その日の異常な出来高(過去252営業日の平均出来高に対する倍率)
- 前日の1日リターン(極端に上がった/極端に下がった)
- その日ニュースに出たかどうか
ここで一度、手を止めてほしいところです。
この3つは、無料の株式情報サイトのランキング画面と、ほぼ一対一で対応しています。
| 研究で使った注意の代理指標 | 対応する画面の名前 |
|---|---|
| 異常出来高 | 出来高急増ランキング/出来高上位 |
| 極端な前日リターン | 値上がり率ランキング/値下がり率ランキング/ストップ高一覧 |
| ニュース掲載 | 市況ニュース速報/材料ニュース |
つまり——ランキング画面は、研究者が「注意を測るために」わざわざ作った指標を、あらかじめ計算して並べてくれている画面です。目的が違うだけで、中身は同じものを見ています。
何が起きていたか(実数値)
では、注意を引いた銘柄に対して、個人投資家は実際にどう動いていたか。
Barber & Odean は、大手ディスカウント証券の78,000世帯(1991年1月〜1996年11月)ほか4つのデータセットで、買い越し率(買い注文数−売り注文数を全注文数で割った値)を計算しています。大手ディスカウント証券の投資家の場合、件数ベースで次のようになりました。
| その日の異常出来高 | 買い越し率(件数ベース) |
|---|---|
| 最も少ない10分位 | −18.15%(=売り越し) |
| … | … |
| 最も多い20分位 | +29.50%(=買い越し) |
金額ベースでも、最低出来高10分位の**−16.28%から最高出来高20分位の+17.67%**へ、ほぼ単調に増えています。論文の要約表現を借りれば、異常に出来高が多い銘柄(上位5%)については、売りのおよそ2倍の件数の買いが出ていたということです。
決定的なのは、こちら
ここまでは「目立つと買われる」という、ある意味では当たり前の話です。この記事の核心は次の数字です。
前日リターンで並べた場合、いちばん買い越されていたのは「前日、最も下げた20分位」でした。買い越し率 +29.4%。
比較のために書くと、真ん中あたりの第8十分位では +1.8% まで下がります。つまり買い越しは、前日に大きく上げた銘柄でも、大きく下げた銘柄でも高く、中間で低い——U字型です。
これが意味することは、ひとつしかありません。
注意には方向がない。
上がったから買われたのでも、下がったから買われたのでもなく、目立ったから買われた。上と下は、注意の観点からは区別されていません。
そして なぜ順張りは機能するのか で扱ったモメンタムは、方向を持った現象です。上がってきたものに乗る。下げているものには乗らない。方向が命です。
注意には方向がなく、順張りには方向がある。 だから、注意で銘柄を拾う手順は、どれだけ丁寧にやっても順張りにはなりません。別の戦略を、順張りだと思って実行していることになります。
機関投資家は逆だった
同じ論文で、機関投資家(プレクサス・グループが分類したモメンタム型・バリュー型・分散型のマネージャー)の買い越し率も計算されています。結果は個人と逆でした。彼らは異常出来高が低い日のほうが買い越しが大きく、特にバリュー型は低出来高の日に積極的な買い手になっていました。
なぜ逆になるのか。論文はその理由も書いています。要旨はこうです——機関投資家は、探索をコンピュータで絞り込む。特定のセクターに限定したり、低PERといった具体的な基準を満たす銘柄に探索を限定したりすることで、注意への依存を減らしている。個人もコンピュータや事前の選別基準を使うことはできるが、平均的にはそうしない傾向がある。
これは、そのままこの記事の処方箋です。
論文は「個人は注意に弱い」で終わっていません。機関との差は能力ではなく、事前に決めた基準で機械的に絞っているかどうかだと言っています。そして「個人にもできる」とも書いてあります。
やることは、探す前に条件を決めておく。それだけです。
注意で買うと、どうなりやすいか
もうひとつ、注意の“その後”についての研究を添えておきます。
Da, Engelberg & Gao (2011) は、Googleの検索ボリューム指数(SVI)を投資家の注意の直接的な尺度として使い、Russell 3000銘柄(2004〜2008年)を分析しました。結論は、SVIの増加はその後2週間の株価上昇を予測し、1年以内に反転するというものです(IPOの初日の大きな上昇とその後の長期的な低調にも寄与している、とも報告されています)。
上がる。ただし、戻る。
数日〜数週間のスイングを前提にする本ブログの立場では、この形はいちばん扱いにくいものです。乗れば取れることもある。ただし降りる基準を持っていないと、往復して終わる。だましに遭ったブレイクの後検証 で見た形と、構造がよく似ています。
第3部:では「新高値」は注意ではないのか(自己反論)
ここで、当然の反論があります。
新高値だって目立つじゃないか。 新高値更新の一覧も、結局はランキング画面の一種ではないのか。
これは正しい指摘なので、正面から分けます。
位置の条件と、注意の指標は別物
新高値は「位置」の条件です。 今の株価が、過去1年(52週)の値幅の中でどこにいるかを表しています。Barber & Odean の3つの代理指標——異常出来高・極端な前日リターン・ニュース——のどれでもありません。
決定的な違いは時間の幅です。
| 参照している期間 | 性質 | |
|---|---|---|
| 値上がり率ランキング | 1日 | 出来事 |
| 出来高急増ランキング | その日 vs 過去252日の平均 | 出来事 |
| 52週高値 | 過去1年間ずっと | 状態 |
出来事は明日には別の銘柄に移ります。状態は、崩れるまで続きます。新高値ブレイク投資のやり方 が扱っているのは後者です。
ただし、重なる
とはいえ、正直に書けば新高値銘柄は、しばしば出来高もニュースも伴います。3つの円は重なります。
だからこそ 52週高値スクリーニングの具体的条件 では、位置の条件だけでなく、除外条件(売買代金・時価総額・25日移動平均線からの乖離率)を必ず付けました。除外条件の役割は、いま振り返ればはっきりしています——位置の条件に混ざり込んだ「注意の成分」を落とすためです。
特に25日線乖離率の上限は効きます。仕手株・急騰株に飛び乗って焼かれる仕組み で書いたとおり、乖離が極端に開いた銘柄は、位置の話ではなく出来事の話になっています。
実務のトラップ:「年初来高値」は季節で意味が変わる
無料ツールを使ううえで、必ず知っておくべき仕様があります。
多くの国内サイトが並べているのは、52週高値ではなく**「年初来高値」**です。そして年初来高値には、こういう慣行があります。
その年に付けた最も高い値段のこと。ただし、1〜3月は年初来高値ではなく昨年来高値を使用するのが一般的です。 (大和証券/三井住友DSアセットマネジメント 用語集、いずれも情報提供=時事通信社)
なぜそうなっているかというと、1月の「年初来高値」は数週間の高値でしかなく、指標としての意味が薄いからです。1〜3月は前年1月以降まで遡って比較する、という調整が入っています。
ここから、実務上の注意が2つ出てきます。
- 「年初来高値更新」と「52週高値更新」は同じではない。 年初来高値は起点が1月1日(1〜3月は前年1月1日)に固定されており、52週高値は常に直近から遡って1年です。使うツールがどちらの定義かを一度確認しておくこと
- 年の後半ほど条件は厳しく、年明けほど甘くなる。 12月の「年初来高値更新」はほぼ1年分の高値ですが、4月のそれは3か月分に近い。同じ画面でも、季節によって通過のハードルが動いています
これは条件の良し悪しの話ではなく、自分が何で絞っているかを把握しているかどうかの話です。
第4部:条件を毎週いじると、実力ゼロでも必ず見つかる
さて、「条件を先に決めておく」と書きました。ここには当然、次の疑問が来ます。
その条件が悪かったら? 良くなるように、毎週チューニングすればいいのでは?
これがいちばん危ないので、丁寧に扱います。
7,846通りの売買ルールを全部試した研究
Sullivan, Timmermann & White (1999) は、テクニカル分析の評価にデータスヌーピング(同じデータに対して大量のルールを試し、最良のものを選ぶことで生じる見かけ上の優位)の問題を持ち込んだ論文です。
彼らはフィルタールール・移動平均・支持線抵抗線・チャネルブレイクアウト・オンバランスボリュームなど、7,846通りのパラメータ組み合わせを用意し、ダウ工業株平均の1897〜1996年の100年間に適用しました。
結果は2段構えです。
- 先行研究(Brock, Lakonishok & LeBaron 1992)が対象にした1897〜1986年については、データスヌーピングを調整した後でも、ベンチマークを上回るルールが確かに存在した
- ところが、その後の1987〜1996年については、最良のルールがベンチマークを上回らなかった確率が約12%——つまり通常の有意水準では、テクニカル売買ルールに経済的価値があったという証拠は乏しい
「昔は効いたが、その後の期間では確認できなかった」。最良のルールを選ぶという行為そのものが、優位を作ってしまう——それがこの論文の指摘です。
自分で確かめる:実力ゼロの世界で条件を試す
これを、私たちのスクリーニングの文脈で確かめてみます。Pythonで、次のような世界を作りました。
- 銘柄数は3,709(東証の実際の数に合わせる)
- 各銘柄の「条件が参照する指標」と「その後20営業日のリターン」は完全に無相関。つまりどんな条件にも、一切の予測力がない世界
- 条件をN通り試し、それぞれ上位30銘柄を候補として、その後のリターンの平均を見る
- 「いちばん成績が良かった条件」を採用する
- これを2,000回繰り返す
実力はゼロなので、正しい答えは「どの条件でも平均リターンは0%」です。結果はこうなりました。
| 試した条件の数 | 最良条件の見かけの平均リターン | プラスに見える確率 |
|---|---|---|
| 1通り(先に決めて変えない) | −0.03% | 49.5% |
| 5通り | +2.14% | 96.9% |
| 10通り | +2.80% | 100.0% |
| 50通り | +4.09% | 100.0% |
| 100通り | +4.58% | 100.0% |
読み方は単純です。
条件を1通りだけ決めて動かさなければ、結果はコイン投げ(プラスに見える確率49.5%)。 これが正しい姿です。実力ゼロなのだから、良く見えたり悪く見えたりして当然です。
ところが条件を10通り試して一番良いものを選ぶと、プラスに見える確率が100.0%になります。 2,000回試して、一度も例外がありませんでした。しかもその見かけの利得は+2.80%で、本物の優位と区別がつきません。
週末ごとに「先週はこの条件だとダメだったから、乖離率を少し緩めよう」とやることは、まさにこれです。10週やれば10通りです。
だから、条件を変えるのは四半期に1回
対策は精神論ではありません。変更の頻度に上限を置くことです。
週次ルーティン で「ルールを変えるのは四半期に1回」と書きましたが、その根拠がここにあります。加えて、変えるときの手続きも決めておきます。
- 変更は四半期に1回だけ。次の変更日をカレンダーに先に書く
- 変更の理由は「今週うまくいかなかったから」では不可。30件以上の記録が溜まって、はじめて判断材料になる(トレード記録のつけ方 で書いた「件数30未満は判断保留」と同じ線)
- 変更したら、変更前の条件も残す。両方の結果を並べられるようにしておく
条件が悪いのか、たまたま悪い時期だったのかは、その場では絶対に区別できません。区別できないものを区別しようとする作業に、週末の20分を使わないことです。
第5部:候補数の上限を先に決める
選択肢が増えると、決められなくなる(ただし条件付き)
Iyengar, Huberman & Jiang (2004) は、約80万人の従業員の401(k)(確定拠出年金)データを使い、選択できるファンドの本数が増えるほど加入率が下がることを示しました。報告されている大きさは、ファンドを1本追加するごとに加入率が0.15〜0.20ポイント低下。10本増えれば1.5〜2.0ポイントです。
ただし——ここは自分から書いておきます。
この「選択過多」の効果は、その後のメタ分析で揺らいでいます。 Scheibehenne, Greifeneder & Todd (2010) は、公刊・未公刊あわせて50の実験・63条件(N=5,036)をまとめ、平均効果量はほぼゼロ、ただし研究間のばらつきが大きいと報告しました。選択過多が起きるための前提条件はいくつか示唆されたものの、十分条件は特定できなかった、としています。
ですから、「選択肢が多いと必ず選べなくなる」という強い主張は使いません。使うのは、もっと弱い、しかし実務的な主張だけです。
候補が20あるときと3つのときでは、1つあたりにかけられる時間が違う。
これは心理学ではなく割り算です。20分で20銘柄を見れば1銘柄1分。3銘柄なら1銘柄7分弱。エントリー前チェックリスト の10項目を1分で通せるかというと、通せません。通せないチェックリストは、通したことにされます。
上限は5銘柄。ゼロでもいい
上限の根拠は、心理ではなく資金から出します。ポジションサイジング の考え方で逆算すると、こうなります。
- 総資産300万円、1トレードの許容損失を総資産の1%=3万円とする
- 損切り幅を8%とすると(損切りライン)、1銘柄あたりの投下額は 3万円 ÷ 8% = 37.5万円
- 5銘柄で187.5万円=総資産の約62%
5銘柄で、すでに資金の6割です。 候補を10も20も並べる意味が、そもそもありません。並べても買えないからです。
そして候補ゼロの週は普通にあります。条件が厳しければ、通らない週があるのが正常です。週次ルーティン で書いた「今週の結論:候補なし。何もしない。」を、そのまま書いて終わりにします。
第6部:週末20分の実物
ここからが手順です。設計の原則は3つだけ。
- 開く画面を先に決める(決めていない画面は開かない)
- 順番を固定する(毎週同じ順番。上から下へ一方通行、戻らない)
- 20分で止める(時間を延ばすと条件が緩む)
全体の形
| 配分 | やること | 開く画面 |
|---|---|---|
| 3分 | 地合いの確認(指数のトレンド。下向きなら候補数の上限を半分に) | 指数チャート1枚 |
| 5分 | 位置で絞る(52週高値からの乖離 −5〜+5%) | スクリーナー1枚 |
| 5分 | 除外条件を当てる(売買代金・時価総額・25日線乖離・規制銘柄) | 同じスクリーナー |
| 4分 | 週足で方向を確認(13週線の上・上向きか) | 週足チャート |
| 3分 | 残りに順位を付けて、上位5つまでを翌週の候補にする | メモ |
「探す」に配分している時間は、ゼロ分です。ここが第2部からの帰結です。ランキング画面・SNS・ニュース速報は、この20分の手順に含めません。
各ステップの中身
① 地合い(3分)
指数(TOPIXまたは日経平均)の日足が25日線の上にあるか、25日線が上向きか。下向きなら、その週の候補数の上限を5から2〜3に下げます。相場が崩れた時の現金比率 の考え方を、銘柄数の側で表現したものです。
② 位置(5分)
52週高値からの乖離率で絞ります。条件の中身は 52週高値スクリーニングの具体的条件 に譲りますが、要点は「高値を更新した銘柄」ではなく「高値の近くにいる銘柄」を拾うことです。更新した瞬間だけを追うと、それは第2部の「出来事」に戻ります。
なお、使っているツールが「年初来高値」ベースなら、第3部で書いた季節性を思い出してください。1〜3月と、4月以降では意味が違います。
③ 除外(5分)
ここが実は本体です。残す理由を探すのではなく、外す理由を探します。
- 売買代金が基準未満 → 外す(約定できない、出来高の読み方)
- 時価総額が基準未満 → 外す
- 25日線からの乖離が上限超え → 外す(仕手株・急騰株)
- 日々公表銘柄・増担保規制など、取引所の規制対象 → 外す
- 翌週に決算発表がある → 外す(決算モメンタムの乗り方 の「寄り付きに飛びつかない」を、候補選定の段階で実行する)
④ 週足(4分)
マルチタイムフレーム分析 の第7部で足した5分の作業です。銘柄ごとに見るのは2つだけ。終値が13週線の上か。13週線は上向きか。どちらかが「いいえ」なら外します。
⑤ 順位付けと上限(3分)
残った銘柄に、あらかじめ決めた1つの基準で順位を付けます(例:52週高値からの乖離が小さい順)。その場で基準を考えないこと。 上から5つ(地合いが悪ければ2〜3つ)を翌週の候補にして、終わりです。
コピー用:週末スクリーニング 20分
【週末スクリーニング|20分・上から一方通行】
0分 タイマーを20分にセット
3分 地合い:指数は25日線の上か / 25日線は上向きか
→ 下向きなら、この週の上限を5 → 2〜3に下げる
5分 位置:52週高値からの乖離 −5〜+5% で抽出
(年初来高値ベースのツールなら、1〜3月は基準が変わる点に注意)
5分 除外:以下に1つでも当たったら外す
□ 売買代金が基準未満 □ 時価総額が基準未満
□ 25日線乖離が上限超え □ 取引所の規制対象
□ 翌週に決算発表がある
4分 週足:終値が13週線の上か / 13週線は上向きか(両方YESだけ残す)
3分 順位付け:決めてある基準1つで並べ、上から上限数まで
20分 終了。候補ゼロなら「今週は候補なし。何もしない。」と書く
※この20分の中で、ランキング・SNS・ニュース速報は開かない
※条件そのものを変えるのは四半期に1回だけ(次の変更日:____年__月__日)
週末にやることの弱点(月曜のギャップ)
正直に書いておくと、週末に決める方式には弱点があります。土日の間に相場は止まっていますが、情報は止まっていません。 月曜の寄り付きで、金曜終値から大きく離れて始まることがあります。
対策は、価格ではなく条件で注文を置くことです。「この価格まで上がってきたら買う」という逆指値ベースの設計にしておけば、飛んで始まった場合は約定しないか、想定より不利な価格で約定します。後者を避けるには、指値を組み合わせます。注文の種類そのものは デイトレとスイング、兼業はどっち? で整理したので、ここでは繰り返しません。
そして平日の夜に、条件が変わっていないかだけ確認する。週末に決めたことを、平日に考え直さない。これが 週次ルーティン の「平日夜の10分」です。
第7部:それでも平日に手順を外れていい場面
週末だけ、と書きました。ただし例外をひとつも認めない設計は、たいてい破られます。そこでどちら向きの例外なら認めるかを、先に決めておきます。
ここでも、第1部の非対称性がそのまま効いてきます。
平日にしていいのは「減らす判断」だけ。「増やす判断」は週末だけ。
売りには検索問題がありません。自分が持っている数銘柄、あるいは週末に決めた5銘柄の中から選ぶだけだからです。だから減らす方向の判断は、平日にやっても注意に乗っ取られません。逆に、増やす方向の判断は必ず3,709社の海に接続します。
具体的には、次の3つです。
① 保有銘柄が、決めてあった降りる条件に触れた
これは判断ですらありません。週末に決めたことの実行です。むしろ実行しないことのほうが手順違反になります(損切りライン/トレーリングストップ)。
② 週末に決めた候補の前提が、平日に壊れた
急な業績修正、想定外のギャップ、規制銘柄への指定。候補リストから外すのは、平日にやって構いません。外すだけで、代わりを足さないのが要点です。5枠のうち1つが空いたまま週末を迎えれば、それでいい。
③ 決算発表シーズン(おおむね2月・5月・8月・11月)
この時期は、1週間という間隔が長すぎる場面が出てきます。ただし対処は「毎日見る」ではありません。候補の取り方を変えるほうです。
- 発表前の銘柄は、その週の候補にしない(決算モメンタムの乗り方 の「またぎを避ける」を、選定の段階で実行する)
- 発表後の銘柄だけを対象にする。事実が確定した後なら、週末まで待っても情報の鮮度は落ちにくい
発表予定日は取引所が無料で公開していますが、予定は変更されうると取引所自身が注記している点は エントリー前チェックリスト で触れたとおりです。予定表は「外すため」に使うもので、「狙うため」に使うものではありません。
そして、認めない例外
「今日たまたま見たランキングに、条件を満たしていそうな銘柄があった」——これは、どれだけ条件を満たして見えても不可です。通した順番が違うからです。第2部の全部が、ここに集約されています。
この記事を書きながら気づいたこと
体験談として書けるほどの派手な失敗があるわけではないので、正直なところを書きます。
この記事のために、自分が実際にやっている「銘柄を探す作業」を分単位で書き出してみました。すると、「探す」に配分していた時間の大半が、ランキングとニュースを眺める時間でした。条件を通す作業は、実は数分で終わっていました。
つまり私は、数分で終わる作業のまわりに、数十分の“注意を浴びる時間”を貼り付けていたことになります。しかも、その数十分のほうを「銘柄研究」と呼んでいました。
トレード記録のつけ方 で「NTT株を買った理由を、私は結果が出た後に組み立てていた」と書きましたが、構造は同じです。手順を書き出すまで、自分が何をやっているかを正確には知りませんでした。
書き出す作業自体は、10分もかかりません。おすすめします。
よくある失敗と注意点
- 「良い銘柄を見逃したくない」で条件を緩める → 条件は見逃すためにあります。3,709社ある以上、見逃さない設計は存在しません
- スクリーニング結果を見てから条件を変える → 第4部のとおりです。10通り試せば、実力ゼロでも100%プラスに見えます
- ランキングで見つけた銘柄を、後からスクリーナーに通して「条件を満たしている」と確認する → 順番が逆です。通す順番が結論を変えます(エントリー前チェックリスト の「自分→場→銘柄」と同じ話)
- 候補ゼロの週に、上限を6に増やして探し直す → 上限は最大値であって目標ではありません
- 「年初来高値更新」と「52週高値更新」を同じものとして扱う → 起点が違います。特に1〜3月
- 20分を延長する → 延長した10分で通した銘柄は、たいてい除外条件に引っかかっていた銘柄です
- 平日に候補を「足す」 → 減らすのは可、足すのは不可(第7部)。空いた枠は、空けたままにします
正直に書いておく留保
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Barber & Odean (2008) は1990年代の米国のデータです。対象は大手ディスカウント証券・大手リテール証券・小規模ディスカウント証券の顧客と機関投資家で、時期は1991〜1999年。日本の個人投資家、2026年のスマホアプリ環境で同じ数字が出るとは限りません。借りているのは数値そのものではなく、「買いだけが検索問題になる」「注意の代理指標は3つ」という枠組みです
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「注意には方向がない」は、買い越し率という1つの指標から言えることに限られます。 U字型の買い越しが観測されたことと、個人が「上げも下げも区別していない」と断言することの間には、距離があります。特に、下げた銘柄を買っているのは逆張り志向の投資家かもしれず、その人たちにとっては方向がある行動です
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Sullivan-Timmermann-White (1999) は指数(ダウ平均)に対する売買ルールの研究であり、個別銘柄のスクリーニング条件の研究ではありません。データスヌーピングという問題の構造は共通しますが、大きさが同じとは言えません
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第4部のシミュレーションは、私が作った人工的な世界です。実力を完全にゼロに設定し、条件同士の相関も入れていません。現実の条件は互いに相関しているので、同じ数の条件を試しても、ここまで極端にはならない可能性があります。示したかったのは水準ではなく、「条件を選び直す行為そのものが、見かけの優位を作る」という向きです
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選択過多の研究は、賛否が分かれています。 第5部に書いたとおりメタ分析では平均効果はほぼゼロでした。上限5銘柄という数字は心理学から出したものではなく、資金からの逆算です。資金規模が違えば、数も変わります
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手順の各ステップの通過率は、実測ではありません。 第6部の図に入れた数字は「こういう順で絞るとこのくらいの規模感になる」という設計上の目安です。相場環境によって、残る銘柄数は大きく変動します
まとめ
- 東証には3,709社(2026年8月13日時点、TOKYO PRO Marketを除く)ある。買いだけが検索問題になる
- 個人投資家の買いは注意に引っ張られる。ランキング画面は、研究が使う注意の代理指標そのもの(異常出来高・極端な前日リターン・ニュース)を並べている
- 決定的なのは、前日に最も下げた銘柄でも買い越し +29.4% だったこと。注意には方向がなく、順張りには方向がある
- 機関投資家が個人と逆だったのは、能力ではなく事前に決めた基準で機械的に絞っているから。論文自身が「個人にもできる」と書いている
- 条件を10通り試して最良を選ぶと、実力ゼロでもプラスに見える確率は100.0%。だから条件をいじるのは四半期に1回
- 手順は週末20分・上から一方通行・上限5銘柄・ゼロでもいい。この20分に「探す」時間は含めない
- 平日にしていいのは減らす判断だけ。増やす判断は週末だけ(売りには検索問題がないから)
新高値銘柄を「探す」のをやめて、新高値の条件を通すに変える。作業としては、たぶん退屈になります。それでいいのだと思います。
次の一歩
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