「月末・月初は上がる」は本当か|「お金が入る日に合わせて買う」をやめる。強かったのはお金が入る“前”の月末で、その上乗せは往復コストの3分の1しかないから
本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
リード
「月末・月初は株が上がりやすい」という話があります。理由として挙げられるのは、だいたい次の3つです。
- 給料が入り、その一部が株や投信に回る
- 積立投資(つみたてNISAなど)の買付が月初に入る
- 年金などの機関投資家が、月末にリバランス(資産配分の調整)をする
どれも「月の変わり目にお金が入るから」という説明です。だとすれば、新規の買いは月末まで待ったほうがいいのか。いい銘柄を見つけても、月初の資金流入に合わせて買うほうが得なのか——。
1月は上がりやすいのか、年始に新しいお金が入るから上がる、は本当か、「SQ週は荒れる」は本当かと続けてきた検査——説明に使われている原因は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか——を、今度は「月の変わり目」にかけてみます。
結論:月末は少し強い。ただし説明とは時期も向きも合わず、上乗せはコストに届かない
- 大きさが足りない。東証全銘柄112万件の検証で、月をまたいで持つと平均+0.27%。ただし月中に同じ日数持っても+0.21%で、上乗せは0.06ポイント。建玉37.5万円なら約220円=往復コストの下限(約620円)の3分の1
- 時期が逆。強いのはお金が入る前の月末で、積立の資金が入るはずの月初はむしろ月中より弱い。月初3日目は1年でいちばん弱い日
- 向きがない。リバランスは「株が上がりすぎたら売る」「下がりすぎたら買う」ので、月末に買いになるか売りになるかは、その月の相場次第
- 上乗せのほとんどは1月。12月末→1月初を除くと、月をまたいで持つほうが月中より成績が悪い
- 持ち帰りは1つ。入口の条件にカレンダーの日付を入れない。いいと思った銘柄を、月末まで待って買う理由はない
第1部:検証の中身——112万件で見た「月またぎ」
材料は、株の教科書(西村剛氏)が公開している検証です。規模が大きく、条件がはっきりしているので、ここを土台にします。
- 対象:東証の全銘柄(6,849銘柄)
- 期間:2000年1月〜2026年7月(319か月)
- ルール:月末の3営業日前の終値で買い、翌月の3営業日目の終値で売る
- 件数:1,128,292件(手数料・スリッページ控除前)
結果を、同じ検証の中の「比べる相手」と並べます。
| 区分 | 平均 | 勝率 |
|---|---|---|
| 月をまたいで持つ | +0.2715% | 48.89% |
| 月中に同じ日数持つ | +0.2133% | 48.47% |
| 差 | +0.0582ポイント | +0.42ポイント |
1日あたりで見ると、はっきり差が出ている場所があります。
| 位置 | 1日平均 |
|---|---|
| 月中(ふつうの日) | +0.0384% |
| 月末の5営業日 | +0.1232%(月中の3.2倍) |
| 月初の5営業日 | +0.0187%(月中の半分) |
| 月初3日目 | −0.1064%(最弱) |
ここで一度、事実として認めておきます。月末の数日が、ふつうの日より強いのは本当です。 米国でも McConnell & Xu (2008, Financial Analysts Journal) が1926〜2005年のデータで同じ現象を確認し、35か国中31か国で見つかったと報告しています。現象そのものは、国をまたいで繰り返し観測されてきたものです。
問題は、それが**「お金が入るから」で説明できるのか**、そして順張りの売買で取れる大きさなのかです。
第2部:大きさ——上乗せは往復コストの3分の1
まず、いちばん大事な比較です。
月をまたいで持つと+0.27%。これだけ見ると悪くない数字に見えます。でも月中に同じ日数持っても+0.21%あります。株は平均すると少しずつ上がってきたので、何日か持てば、いつ持ってもプラスになりやすい。「月末に買う」ことで上乗せされるのは、差の0.06ポイントだけです。
これをエントリー前チェックリストで使っている建玉37万5,000円に当てはめると、
- 上乗せ:0.0582% × 375,000円 = 約218円
- 往復コストの下限(手数料ゼロ時代の実効コストで計算した、株価3,010円の銘柄の1呼値=0.1661%):約623円
上乗せは、1回売り買いするコストの35%しかありません。 月末に合わせるために、いったん手放して買い直す、あるいは月初に売って乗り換える——そういう動きを1回足すだけで、月末の上乗せは3倍の赤字になります。
もう1つ、数え方の注意があります。112万件と聞くと、ものすごく確かな数字に思えます。でも、同じ日の全銘柄はだいたい一緒に動きます。独立した観測は、実質的に「319か月」の319回です。仮に指数の6営業日の値動きのブレを3%程度とすると、0.06ポイントの差は t≈0.2 で、偶然の範囲に収まります(筆者の概算)。件数の多さは、差の確かさを保証しません。
第3部:時期——強いのは「お金が入る前」
ここが、説明と観測がいちばん大きくずれるところです。
「月初に積立の買付が入るから上がる」なら、強くなるのはお金が入ったあとの月初のはずです。ところが第1部の表では、
- 月末の5営業日:月中の3.2倍
- 月初の5営業日:月中の半分
- 月初3日目:1年でいちばん弱い日
でした。上昇は、お金が入る前に起きて、お金が入るころには終わっています。 説明が予測する時期と、観測された時期が逆です。
時期のずれは、もっと長い目で見ても出ています。
- 2000〜2012年:平均+0.5421%
- 2013〜2026年:平均+0.0701%(約8分の1)
- 2024年−1.37%、2025年−0.26%、2026年−0.05%(3年連続マイナス)
一方、この間に「月の変わり目に入るお金」は増え続けました。つみたてNISAが2018年に始まり、2025年のつみたて投資枠の買付は年6.2兆円(第一ライフ資産運用経済研究所)になっています。お金の通り道が太くなるほど、効果は細くなった。 年始に新しいお金が入るから上がる、は本当かで「1月の上昇確率は、年初に資金が入る経路が整うほど下がった」と書いたのと、同じ形です。
大きさも確かめておきます。つみたて投資枠の年6.2兆円を12で割ると、月に約5,170億円。仮にその全額が日本株に向かい、しかも1日に集中したとしても、プライム市場の1日平均の売買代金(2026年1月=7兆6,646億円、JPX)の**6.7%**です。実際には外国株式の投信に向かう分が大きく、買付日も証券会社や本人の設定で分かれています。上限を取っても、相場を1日押し上げる大きさではありません。
米国の研究も、同じ結論です。McConnell & Xu は、月の変わり目の効果が**「売買高や株式ファンドへの資金流入で測った月末の買い圧力では説明できない」と書き、最後に「答えを探しているパズルのまま」**と結んでいます。
第4部:向き——リバランスは「買い」とは限らない
残るのは「年金が月末にリバランスするから」という説明です。これは実際に研究があります。
Harvey, Mazzoleni & Melone (2025, NBER Working Paper 33554) は、1997〜2023年の米国のデータで、月末などの決まった日にリバランスする機関投資家の売買が、市場全体の値動きに跡を残していることを示しました。
- 株式が上がって配分が多くなりすぎた月は、株を売って債券を買う → 翌日の株式リターンが17bp(0.17%)低い
- 逆に株式が下がって配分が少なくなった月は、株を買う → 翌日は高い
- 予測力は月末の最後の4日に集中している
つまり、リバランスは確かに月末の値動きを動かしています。ただし向きは「その月に株が上がったか、下がったか」で決まる。上がった月の月末は売り、下がった月の月末は買いです。「月末はリバランスの買いが入るから上がる」は、半分の月にしか当てはまらない説明です。
日本最大の年金基金も確認しておきます。GPIFの基本ポートフォリオは国内株式25%で、乖離許容幅は±6%。決まった日付に戻すのではなく、配分が幅を超えたら戻すという設計です。新NISAで需給は変わったのかで「需給は量ではなく符号で読む」と書きましたが、リバランスの需給にはそもそも固定の符号がありません。
しかも大きさは、ここでも小さい。17bpを建玉37.5万円に当てはめると約638円。往復コストの下限(約623円)とほぼ同じです。SQ週の記事で出た「荒れの差=約640円」と、ほとんど同じ数字がまた出てきました。カレンダーの効果は、実在するものでも、個人が1回の売買で取り出せる大きさではない——3本続けて同じ結論になっています。
第5部:上乗せのほとんどは1月
もう1つ、見落とされやすい点があります。月またぎの成績を、どの月をまたいだかで分けると、ばらつきが大きいのです。
| またぐ月 | 平均 |
|---|---|
| 12月末→1月初 | +1.97% |
| 6月末→7月初 | +1.18% |
| 3月末→4月初 | −0.72% |
| 9月末→10月初 | −0.86% |
| 7月末→8月初 | −1.57% |
12か月のうちプラスは7か月、月ごとのばらつき(標準偏差)は約1ポイント。平均の0.27%より、月による違いのほうがずっと大きい。
そして12月末→1月初を除くと、月またぎの平均は+0.12%前後に下がり、月中に持つ場合(+0.21%)を下回ります(件数で加重した筆者の計算。月中の数字は1月の月中も含むので、厳密な比較ではありません)。「月末月初の効果」と呼ばれているものの多くは、年末年始の効果だということです。その年末年始の効果が税でもお金の流入でも説明しにくいことは、1月は上がりやすいのかと年始に新しいお金が入るからで見たとおりです。
第6部:実務——日付で待たない、日付で売らない
持ち帰りは次の3つです。
1. いいと思った銘柄を、月末まで待って買わない。
待って得られる上乗せは、期待値で約220円。一方、待っている間に新高値ブレイクから離れていけば、入口の条件そのものが崩れます。順張りの入口を決めるのは値動きで、日付ではありません。
2. 月初だからといって、利確や乗り換えを前倒ししない。
「月初は弱いから月初に売る」も、日付で出口を決める判断です。月初3日目の−0.1%は、損切りラインや利確の基準を動かす大きさではありません。配当・優待が出口を歪めるで書いたとおり、日付が出口を決めた瞬間、値動きは決定権を失います。
3. 入口の条件にカレンダーを入れない。
「月末である」は全銘柄に同時に成立する条件なので、銘柄を選り分ける働きをしません。エントリー前チェックリストに入れても、候補は1つも減りません。月の名前(記事050)、週の名前(記事057)に続いて、日付の名前も入口の条件に入れる意味がない、というのが3本目の結論です。
第7部:自分に不利な材料
- 現象そのものは頑健です。米国で80年、35か国中31か国。東証でも26年分の月末5営業日は月中の3.2倍。長く・広く観測されてきた点は、この記事のどの数字より重いと思います
- 給料日の時期は合っています。日本の給料日は25日前後が多いとされ、月末の数営業日前にあたります。第3部で否定したのは「月初の積立で上がる」説で、「25日の給料で月末が強い」説は時期だけなら合う。ただし、給料が株に回る量と向きは、個人が月をまたいで売り越し・買い越しのどちらになっているかを確かめないと言えず、この記事では確かめていません
- リバランスの効果は実在します。Harvey らの17bpは統計的に頑健で、年160億ドル(米国の1世帯あたり約200ドル)のコストとして試算されています。この記事が否定しているのは「月末はリバランスの買い」という向きの決めつけで、効果の存在ではありません
- t値は粗い概算です。「6営業日のブレ3%」は仮定で、月の変わり目と月中の観測が互いに独立という前提も置いています
- 1つの検証に依存しています。条件(月末3営業日前→翌月3営業日目)を変えれば数字は変わります。検証元は「月初2営業日目までに売る」ほうが良いとしていますが、これは結果を見てから区間を選ぶと当たりやすくなる(SQ週の記事の「魔の水曜日」と同じ)問題を含みます
留保
- 建玉換算・1月を除いた平均・t値・積立資金の上限比は、公表値をもとに筆者が計算したものです。元データは確認していません
- 検証の成績は手数料・スリッページ控除前です。控除後の比較は、往復コストの下限(1呼値)で置いた筆者の試算です
- McConnell & Xu の国別の内訳(日本が31か国に入っているか)は確認できていません
- Harvey らは米国のS&P500先物と10年国債先物のデータで、日本の株式市場での同じ検証は見つけられませんでした
- つみたて投資枠の買付6.2兆円は年間の合計で、月別・買付日別・資産別の内訳は公表されていません。「1日に全額」は上限を取るための仮定です
- 本記事は特定の時期の売買を推奨するものではありません
次に読む
- 1月は上がりやすいのか(記事050)——「説明に使われている原因は、現象を作れるか」という検査の出発点
- 年始に新しいお金が入るから上がる、は本当か(記事056)——同じ検査を「向き」で行った回
- 「SQ週は荒れる」は本当か(記事057)——カレンダーの効果が往復コストとほぼ同じ大きさに収まる、もう1つの例
- 手数料ゼロ時代の実効コスト(記事045)——日付に合わせて売り買いするたびに払っているもの
- 新NISAで需給は変わったのか(記事053)——需給は量ではなく符号で読む
免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。