「10月は暴落しやすい」は本当か|「10月だから降りる」をやめる。10月に集まっているのは暴落ではなく“荒れ”で、その荒れはたった3回の10月から来ているから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

10月になると、毎年この話を目にします。

「10月は暴落の月。1929年の世界恐慌も、1987年のブラックマンデーも、2008年のリーマン・ショックの底抜けも10月だった。だから10月は持ち株を減らしておく」——。

130年ほど前、マーク・トウェインは小説『まぬけのウィルソン』(1894年)の中に、こんな皮肉を書いています。

10月。株の投機にとって、とりわけ危険な月のひとつである。ほかには7月、1月、9月、4月、11月、5月、3月、6月、12月、8月、2月がある。

冗談としては完璧です。ただ、笑って済ませる前に数えてみます。1月は上がりやすいのかから「決算シーズンは荒れる」は本当かまで続けてきた検査——その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか——を、今回は「10月」にかけます。


結論:10月に集まっているのは「暴落」ではなく「荒れ」。しかも3回分

  • 大きさ(日で数える):日経平均の大暴落の“日”は、確かに10月に多い。偶然では説明しにくいほど多い
  • 大きさ(月で数える):ところが“月”で数え直すと、1987年・1990年・2008年のたった3回。10月の大暴落・大暴騰の日11日のうち8日は2008年10月1か月分で、2009年以降は1日もない
  • 向き:10月は大暴騰の日も多い。日経平均の上昇率の歴代1位と2位はどちらも10月で、10月の平均騰落率はプラス。荒れは「下がる理由」ではない
  • 時期:最悪の日と最良の日は隣り合って来る。2008年10月10日の−9.62%の次の営業日が、歴代1位の+14.15%
  • 持ち帰り:月の名前で降りない。危ないのは月ではなく局面で、それはカレンダーではなく**ブレ幅(値動きの大きさ)**で測れる

第1部:「10月は暴落しやすい」を3つに分ける

この話には、3つの別々の主張が混ざっています。

  1. 10月には大暴落の日が多い
  2. 10月は下がる月だ
  3. だから10月は、前もって降りておくのが得だ

1は「数え方しだい」、2は向きが逆、3は時期が合いません。順に見ていきます。


第2部:大きさ①——日で数えると、確かに多い

マネックス証券の吉野貴晶氏が、1949年から2025年9月までの日経平均を調べています。

  • 下落率の大きい日の上位50日のうち10日が10月
  • 上昇率の大きい日の上位50日のうち8日が10月

1年は12か月なので、どの月にも同じように散らばるなら、1か月あたりの期待値は約4.2日です。下落の10日は期待値の2.4倍。偶然でこれ以上に偏る確率を計算すると、**約0.7%**です(筆者の試算)。

歴代ランキングの上のほうだけを見ると、もっと極端です。下落率の上位17日のうち6日、上昇率の上位12日のうち5日が10月。偶然でこうなる確率は、どちらも**約0.2%**しかありません。

ここまでなら、「10月は危ない」は統計的に正しいように見えます。


第3部:大きさ②——月で数えると、3回しかない

ところが、その6日と5日の日付を並べると、景色が変わります。

10月の日付騰落率
1987年10月20日−14.90%下落率 歴代1位
1987年10月21日+9.30%上昇率 6位
1990年10月2日+13.24%上昇率 2位
2008年10月8日−9.38%下落率 8位
2008年10月10日−9.62%下落率 6位
2008年10月14日+14.15%上昇率 歴代1位
2008年10月16日−11.41%下落率 3位
2008年10月22日−6.79%下落率 17位
2008年10月24日−9.60%下落率 7位
2008年10月29日+7.74%上昇率 11位
2008年10月30日+9.96%上昇率 5位

11日のうち8日が、2008年10月という1か月の中にあります。残りは1987年10月の2日と、1990年10月の1日だけです。

暴落は、1日ずつばらばらにやって来ません。危機の月に、まとめてやって来ます。 だから「日」で数えると、1回の危機が何回分にも数えられてしまう。第2部の「約0.2%」は、この数え方の産物です。

正しく数えるには、「日」ではなく「月」を単位にします。2つのランキングに出てくる日を、どの月の出来事かでまとめると18か月。そのうち10月は3か月です。偶然でこれ以上になる確率は約19%(筆者の試算)。5回に1回は起きる程度の偏りで、「10月が特別」とは言えません。

もう1つ。2009年以降にランキングに入った月は、2011年3月(東日本大震災)、2013年5月、2015年9月、2016年6月(英国のEU離脱の国民投票)、2020年3月、2024年8月、2025年4月の7か月で、10月は1つもありません。最大の下げ幅を記録した2024年8月5日も、10月ではなく8月でした。

「10月は暴落の月」は、1987年と2008年という2つの強烈な記憶に、月の名前がついたものだと考えるのが自然です。


第4部:向き——10月は、上がる日も多い

2つ目の主張、「10月は下がる月」です。

第3部の表をもう一度見ると、11日のうち5日は上昇です。日経平均の上昇率の歴代1位(2008年10月14日、+14.15%)と2位(1990年10月2日、+13.24%)は、どちらも10月です。吉野氏も「10月は下落率が大きい日も多かったのですが、上昇率が大きい日も多く見られる」と書いています。

月全体で見ても、1949年以降の10月の平均騰落率は**+0.38%(上昇した年は53%)、2006年以降に限ると+0.98%(55%)**です(issoh.co.jp の集計)。12か月の中で目立って強くはないものの、マイナスの月ではありません。

米国も同じ形です。S&P500の1928年以降で、10月は下落率上位20日のうち8日を占める一方、月の平均は**+0.54%、上昇で終わった年は約59%**という集計があります。

さらに、季節のアノマリーとしていちばん研究されている「Sell in May(5月に売って、ハロウィーンに戻れ)」では、10月末は買い戻しの合図の側です。Bouman & Jacobsen (2002, American Economic Review) は37市場中36市場で、11〜4月のリターンが5〜10月を上回ると報告しました。

まとめると、10月に集まっているのは「下落」ではなく**「大きな値動き」**です。「決算シーズンは荒れる」は本当かや「SQ週は荒れる」は本当かと同じく、荒れることと、下がることは別の話です。


第5部:時期——最悪の日の次に、最良の日が来る

3つ目の主張、「だから前もって降りておく」です。ここがいちばん実害の大きいところです。

第3部の表を時間の順に読むと、

  • 2008年10月10日(金)−9.62% → 次の営業日の10月14日(火)+14.15%
  • 1987年10月20日 −14.90% → 翌日の10月21日 +9.30%
  • 2008年10月24日 −9.60% → 4営業日後までに +7.74%、+9.96%

大暴落の日と大暴騰の日が、数日のうちに並んでいます。2008年10月10日の引けで恐怖に負けて売った人は、次の営業日の+14.15%を丸ごと逃しました。10日と14日の2日間を持ち続けていれば、通算では**+3.2%**です(筆者の計算)。

相場が崩れた時の現金比率で、2024年8月5日の史上最大の下げの翌日に史上最大の上げが来たことを書きました。10月の記録も、まったく同じ形をしています。最良の日と最悪の日は、同じ局面の中にある。

だから「10月だから降りる」は、時期が合いません。

  • 前もって(9月末に)降りる:その10月が1987年や2008年になるかは、事前に分かりません。77回の10月のうち、大荒れになったのは3回です
  • 荒れてから降りる:降りるのは、たいてい最悪の日の引けです。その直後に、最良の日が来ます

ついでに、10月の弱さを統計で確かめられるかも計算しておきます。日経平均の月間騰落率のブレ(標準偏差)を5.5〜6%と置くと、77年分の10月の平均は**±1.2〜1.3%の誤差**を持ちます。「10月は他の月より1%弱い」ことを見分けるには、116〜138年分のデータが要ります(筆者の試算。1月は上がりやすいのかの「121年」と同じ計算です)。どちらの向きにも、今のデータでは決着がつきません。


第6部:実務——月の名前で降りず、ブレ幅で縮める

持ち帰りは3つです。

1. 月の名前を、入口にも出口にも入れない。

「月末・月初は上がる」は本当かなどで、全銘柄に同時に成り立つ日付は候補を選り分けないので、入口の条件に入れる意味がないと書いてきました。10月は、その出口版です。「10月だから減らす」は、持っている銘柄の値動きとは無関係に、全部を同じだけ減らす判断です。順張りの出口は、銘柄ごとの値動き(損切り価格・トレンドの崩れ)で決めるものでした。

2. 危ないのは「月」ではなく「局面」。局面はブレ幅で測れる。

1987年も2008年も、荒れたのは10月だからではなく、危機の局面に入っていたからです。2008年10月は、9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻のあとでした。そして局面は、カレンダーと違って観測できます。直近の値動きの大きさ(ブレ幅)が広がっていれば、それが10月でも4月でも8月でも、同じように建玉を縮める理由になります。具体的な決め方は相場が崩れた時の現金比率の「株式比率=目標のブレ幅÷直近20日のブレ幅」をそのまま使えます。2024年8月も2025年4月も、10月ではありませんでした。月の名前で身構える人は、10月以外の危機に無防備になります。

3. 縮めるなら少しずつ。0か100にしない。

第5部のとおり、最悪の日の直後に最良の日が来ます。全部降りると、その両方を「降りた側」で迎えることになります。ブレ幅に合わせて少しずつ縮めれば、最悪の日の損も、最良の日の取り分も、両方が少しずつ残ります。

建玉37万5,000円で考えると、10月の平均騰落率+0.38%は約1,400円です。月の名前で降りても、避けられる損は平均ではほぼありません。逃すのは、往復のコストと、局面が反転した日の値幅です。


第7部:自分に不利な材料

  1. 日の数の偏りそのものは本物です。第2部の「上位50日のうち10日」は、偶然では0.7%しか起きない偏りです。「月で数えれば19%」は、危機が月の中で固まるという前提に立った数え方で、10月に危機が起きやすい何かの理由があるなら、その3回自体が偶然ではないのかもしれません。3回では、それを否定も肯定もできません
  2. 日本の5〜10月は、かつて実際に弱かった。Bouman & Jacobsen の日本の結果(1970〜1998年)は、11〜4月が5〜10月を月1.52%上回り(t=2.62)、しかも1987年10月を除いても結果は変わらないと書かれています。三菱UFJ信託銀行のレポート(2012年)でも、1990〜2009年のTOPIXは下半期(7〜12月)が弱い結果でした。ただし、これは10月という1か月ではなく半年単位の話です
  3. 米国では、10月の予想変動率が高めです。10月のVIX(予想変動率)の平均は約21.3で、全月平均の約19.5を上回るという集計があります。市場参加者が10月の荒れを価格に織り込んでいるとも読めます。一方で、米国の Sell in May の効果は1987年10月と1998年8月の2つの外れ値を除くと有意でなくなるという反論もあります(Maberly & Pierce, 2004)
  4. 最近の10月にも荒れはありました。2018年10月、日経平均は1か月で2,199円下げ、10年ぶりの下落幅でした(日本経済新聞)。ランキングに入る1日の暴落がなくても、「10月に痛い目にあった」という記憶が新しく作られることはあります
  5. 第3部の「18か月中3か月」は、上位17日と上位12日という公開されているランキングの範囲だけで数えています。上位50日の全日付で数え直すと、結果が変わる可能性があります

留保

  • 確率・2日間の騰落の合成・検出に必要な年数・建玉の換算は、公表値をもとに筆者が計算したものです。確率は「どの月にも1/12ずつ」という単純化で計算しており、月ごとの営業日数の差は入れていません
  • 日経平均の月間騰落率のブレ(5.5〜6%)は仮定で、実データからの計算ではありません
  • 10月の平均騰落率・勝率と、上位50日の内訳は第三者の集計で、筆者は元データで再計算していません。ランキングの日付と騰落率は複数の集計サイトで照合しました
  • Bouman & Jacobsen の日本の数値は1998年までのもので、公表後に効果が小さくなっている可能性があります
  • マーク・トウェインの一節は筆者の訳です
  • 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではありません

次に読む

  • 相場が崩れた時の現金比率(記事036)——「月」ではなく「ブレ幅」で建玉を縮める具体的な決め方
  • 「決算シーズンは荒れる」は本当か(記事059)——荒れは本物だが、単位がずれている、という同じ形の検査
  • 「SQ週は荒れる」は本当か(記事057)——荒れることと下がることを分けて考える先行例
  • 「月末・月初は上がる」は本当か(記事058)——全銘柄に同時に成り立つ日付が、入口の条件にならない理由
  • 1月は上がりやすいのか(記事050)——月のアノマリーを確かめるのに100年以上かかる計算

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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