「決算シーズンは荒れる」は本当か|「決算シーズンは様子見」をやめる。荒れるのは季節ではなく、自分の銘柄の“発表日の翌朝”だから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

「決算シーズンは荒れるから、新規の買いは控えて様子見」——よく聞く判断です。

3月期決算の会社が多い日本では、決算発表は4月下旬〜5月中旬、7月下旬〜8月中旬、10月下旬〜11月中旬、1月下旬〜2月中旬に集まります。その時期は好決算でも急落し、悪決算でも急騰する。だから季節ごと手を止めておく——。

1月は上がりやすいのか、「SQ週は荒れる」は本当か、「月末・月初は上がる」は本当かと続けてきた検査——説明に使われている原因は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか——を、今回は「決算シーズン」にかけます。

先に書いておくと、この回はこれまでと少し結論が違います。決算は本当に荒れます。 ただ、荒れている場所が「季節」ではありません。


結論:荒れは本物。ただし単位は「季節」ではなく「銘柄ごとの一晩」

  • 大きさ(個別):決算翌朝の始値の約6割は前日比±1%以内。荒れは平均ではなく、1割の“すそ”(±5%超)に集まっている
  • 大きさ(指数):個別の荒れは指数では分散で消える。日経平均に残るのは、構成比率の大きい上位4銘柄の発表日だけ
  • 向き:決算発表がある月の銘柄は、ない月よりむしろリターンが高い(日本で月0.8%)。荒れは「下がる理由」ではない
  • 時期:季節は約6週間あるが、自分の銘柄のリスクは発表日の翌朝の一晩に集まる。しかも発表の6割強は取引終了後なので、損切りの逆指値では止められない
  • 持ち帰り:季節で手を止めない。銘柄ごとの発表日で管理する。「日付を入口の条件に入れない」の、唯一の例外がここ

第1部:「荒れる」を3つの主張に分ける

「決算シーズンは荒れる」には、実は3つの別々の主張が混ざっています。

  1. 個別株が荒れる(自分の持ち株が大きく動く)
  2. 相場全体が荒れる(日経平均やTOPIXが大きく動く)
  3. 荒れて下がる(だから様子見のほうが得)

1は正しい。2は条件付き。3は、データの向きが逆です。順に見ていきます。


第2部:大きさ①——個別株の荒れは「すそ」にある

材料は、決算モメンタムの乗り方でも使った、株の教科書(西村剛氏)の検証です。東証全市場の2005〜2025年の決算発表を、翌営業日の始値が前日終値から何%動いたかで7つに分けています。分類された28,312件の内訳を割合に直すと、次のとおりです(割合は筆者の計算)。

翌朝のギャップ件数割合
+5%以上1,3224.7%
+3〜+5%7982.8%
+1〜+3%3,79213.4%
±1%以内16,75859.2%
−1〜−3%3,08810.9%
−3〜−5%1,0273.6%
−5%以下1,5275.4%

決算の約6割は、翌朝ほとんど動かずに始まります。 一方で、**±5%を超える銘柄が約1割(10.1%)**ある。

ここが大事なところです。「決算は荒れる」は、平均の話ではなく“すそ”の話です。ふつうの決算はふつうに通り過ぎ、10回に1回くらい、日足の理屈がまったく通じない動きが来る。荒れの正体は、このまれで大きな一発です。

だから「荒れるかどうか」を心配しても仕方がありません。考えるべきは、その一発が自分の建玉に来たら、いくら失うかです(第6部)。


第3部:大きさ②——指数では分散で消える。残るのは上位4銘柄

次に「相場全体が荒れる」です。

決算のニュースは基本的にその会社だけの話です。A社が+10%、B社が−10%で始まっても、指数の中では打ち消し合います。株をたくさん束ねるほど、個別の事情は薄まる——分散投資と同じ理屈です。

どれくらい薄まるかを計算してみます(筆者の試算)。

  • 指数の1日の値動きのブレを1.3%と置く(仮定)。決算シーズン20営業日ぶんのブレがベース
  • その間に225銘柄すべてが1回ずつ決算を出し、翌朝のギャップのブレ(標準偏差)を**多めに5%**と置く(第2部の分布から粗く見積もると3%前後)
  • 225銘柄が同じ比率なら、決算シーズンの指数のブレは0.16%しか増えません

ところが日経平均は、同じ比率ではありません。2026年9月30日時点の構成比率は、

  • アドバンテスト 12.39%
  • 東京エレクトロン 8.90%
  • ファーストリテイリング 8.54%
  • ソフトバンクグループ 7.75%

の4銘柄だけで37.58%です(日経平均プロフィル)。この実際の比率で同じ計算をすると、決算シーズンの指数のブレは約1.4%増え、その95%が上位4銘柄から来ます。

アドバンテストが決算で10%ギャップすれば、それだけで日経平均は**約1.24%**動きます。1日の値動きのブレを1.3%と置けば、ほぼ1日分の大きさです。

つまり日経平均で見る「決算シーズンの荒れ」は、シーズン全体の荒れではなく、4銘柄の4つの夜の荒れです。米国でも、決算期を前にした2週間で個別株の予想変動率(VIXEQ)が約4.5ポイント上がったのに、指数のVIXは0.5ポイントしか動かなかった、という観測があります(Cboe、2025年9月)。個別は荒れ、指数はそれほど荒れない——これが分散の算数です。


第4部:向き——決算がある月は、むしろ高い

3つ目の主張、「荒れて下がる」です。

Barber, De George, Lehavy & Trueman (2013, Journal of Financial Economics) は、世界各国のデータで「決算発表が予定されている月の株は、そうでない月より高い」という現象(決算発表プレミアム)を調べました。日本は発表件数が4万件を超えるいちばん大きなサンプルで、

  • 発表が予定されている月は、そうでない月より月0.80%高い(国別の回帰の係数、t=4.26)

という結果です。米国でも Savor & Wilson (2016, Journal of Finance) が、決算発表を控えた企業に**年率9.9%**の超過リターンを報告しています。

ここで誤解してはいけないのは、これはタダの儲けではないということです。Barber らは、プレミアムが大きい国ほど決算前後に個別の荒れが大きく増える、と書いています。荒れを引き受けることへの対価です。

それでも、向きははっきりしています。決算の荒れは「下がる理由」ではありません。 季節ごと様子見をすると、避けているのは下落ではなく、荒れと、その対価の両方です。


第5部:時期——季節は6週間、リスクは一晩

最後に時期です。ここで「季節」という単位そのものがずれていることが分かります。

東証の集計では、2026年3月期の決算発表は、

  • 対象2,147社のうち、**5月13〜15日の3日間に1,294社(60.3%)**が集中
  • 前年は同じ3日間で53.7%=集中はむしろ強まっている
  • 発表時刻は15時30分〜17時59分が63.6%=取引が終わってから

でした(日本取引所グループ、2026年6月4日)。

「決算シーズン」は約6週間ありますが、自分の持ち株にとってのリスクは、その銘柄の発表日の夜、1回だけです。残りの日は、ほかの会社の決算日にすぎません。

そして、その1回は取引時間の外で来ます。発表の6割強は大引け後なので、反応は翌朝の始値に出る。スリッページは自分の記録でしか測れないで書いたとおり、逆指値はトリガーされたあと成行で執行されます。−8%に置いた逆指値は、−15%で始まった朝には−15%で約定します。 決算の荒れが怖い本当の理由は、値幅の大きさではなく、損切りの仕組みが働かない時間に来ることです。


第6部:実務——季節で止めず、発表日で管理する

持ち帰りは3つです。

1. 季節で手を止めない。銘柄ごとの発表日を見る。

新高値をつけた銘柄の次の決算が5週間後なら、決算シーズンの真ん中でも、その銘柄にとっては「決算のない5週間」です。エントリー前チェックリストの項目⑤「次の決算発表日まで何営業日あるか」が、そのまま正しい単位になっています。

ここで、これまでの記事との関係を整理しておきます。月の名前(記事050)、週の名前(記事057)、日付(記事058)は、全銘柄に同時に成り立つので候補を減らさないから、入口の条件に入れる意味がない——と書いてきました。決算発表日は逆です。銘柄ごとに違う日付なので、候補を選り分ける働きをします。 カレンダーの中で、入口の条件に入れていいのはこれだけです。

2. またぐなら、「ギャップで損切りを飛び越えた場合の損失」で建玉を決める。

建玉37万5,000円・損切り−8%なら、予定の損失は3万円です。でも翌朝−15%で始まれば、損失は5万6,250円(予定の1.875倍)になります。またぐと決めたなら、損切り幅ではなく想定するギャップで建玉を逆算します。

想定するギャップ予定損失3万円に収まる建玉減らす割合
−10%30万円20%
−15%20万円47%
−20%15万円60%

どのギャップを想定するかは自分で決めるしかありません(第2部のデータは「−5%以下が5.4%」までで、その先の分布は分かりません)。配当落ちで株価はいくら下がるのかの「出口ではなく入口を動かす」と同じ形です。

3. 乗るのは、発表のあとでいい。

荒れの一晩が過ぎれば、結果は値動きに出ています。大きく上に開いた銘柄が翌日以降も伸びやすいことは決算モメンタムの乗り方で、好決算でも期待に届かず崩れることは好決算なのに急落したケースで見ました。順張りは、予想ではなく結果に乗る手法です。 決算はその「結果」がいちばんはっきり出るイベントでもあります。


第7部:自分に不利な材料

  1. 決算は「その会社だけの話」とは限りません。Patton & Verardo (2012, Review of Financial Studies) は、米国の大型株で発表日に株のベータ(相場全体との連動度)が0.16上がり、2〜5日で戻ることを示しました。決算は他社や景気についての情報も運ぶので、第3部の分散の計算は指数の荒れを小さめに見積もっています
  2. 日経平均は特に偏っています。上位4銘柄で37.58%なので、「指数はそれほど荒れない」はTOPIXのように分散した指数ほど当てはまり、日経平均では弱くなります。半導体関連の決算が続く夜は、指数ごと動くと考えたほうが安全です
  3. 決算シーズンは、ほかのイベントとも重なります。日銀の会合や米国の金融政策、月末など。「決算シーズンに荒れた」と記憶している場面の原因が、決算とは限りません。逆に、荒れの体感そのものは本物かもしれません
  4. 決算発表プレミアムは古いデータです。日本の結果は1990年代〜2009年ごろのもので、公表されたアノマリーは小さくなりやすい(記事050で使った「公表後に平均35%減衰」)。月0.8%が今も残っている保証はありません
  5. ±1%以内が6割、は始値の話です。取引時間中に発表した会社(28.8%)の反応は当日の値動きに出るので、翌朝のギャップには表れません。また全市場の平均で、大型株と小型株の差は分けていません

留保

  • 割合・指数のブレの計算・建玉の換算は、公表値をもとに筆者が計算したものです。指数の1日のブレ1.3%、決算ギャップのブレ5%は仮定です
  • 第2部の分布は検証元が公表している7区分の件数で、個別の値は確認していません。分類件数の合計(28,312件)は検証元の総件数(28,648件)と一致しません
  • 東証の集計は3月期決算の本決算(2026年5月)で、四半期決算や他の決算期の集中度は違う可能性があります
  • 日経平均の構成比率は2026年9月30日時点のもので、株価や定期見直しで変わります
  • Barber らの日本の数値は、国別の回帰の係数を「月0.80%高い」と言い換えたものです
  • 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではありません

次に読む

  • エントリー前チェックリスト10項目(記事033)——決算発表日を「入口の条件」に入れている唯一の項目
  • 決算モメンタムの乗り方(記事025)——荒れの一晩が過ぎたあとに乗る方法
  • スリッページは自分の記録でしか測れない(記事055)——逆指値が「止めてくれない」場面の仕組み
  • 「月末・月初は上がる」は本当か(記事058)——全銘柄に同時に成り立つ日付が、入口の条件にならない理由
  • 配当落ちで株価はいくら下がるのか(記事048)——「またぐなら入口を動かす」の先行例

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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