「Sell in May」は本当か|「5月に売って逃げる」をやめる。冬が夏より強いのは本当でも、売る判断に要るのは“夏が現金に負けるか”で、そちらは100年分のデータでも決着しないから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

毎年、5月の連休が明けるころにこの言葉を目にします。

「セル・イン・メイ(Sell in May and go away)。5月に売って、秋まで相場から離れておけ」——。

英国の古い格言で、1935年の英フィナンシャル・タイムズにはすでに「この格言を理由に手控える投資家」の話が出てきます。10月末のハロウィーンに買い戻すことから、研究の世界ではハロウィーン効果とも呼ばれます。

「10月は暴落しやすい」は本当かでは、10月の暴落説を数え直して「3回分の記憶だった」と書きました。今回は、その10月を“買い戻しの月”として扱う、半年単位の格言です。同じ検査——その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか——にかけます。

先に言っておくと、今回の現象は本物です。それでも、5月に売る理由にはなりません。


結論:冬が強いのは本当。でも、売る判断で比べる相手は「冬」ではなく「現金」

  • 大きさ:冬(11〜4月)が夏(5〜10月)より強いのは、108市場・319年分のデータで確かめられた本物のアノマリー。日本はその中でいちばん差が大きい
  • 向き:ただし「冬より弱い」と「現金より弱い」は別の話。日経平均の夏の上昇確率は52%で、コイン投げと区別がつかない。平均はプラス
  • 時期:夏がマイナスだったのは、相場全体が下げ続けた時代。2013年以降は夏のほうが強く、2019年以降は7年連続で夏が上がっている。2025年の夏は約+45%
  • 測れるもの・測れないもの:冬と夏の差は40年あれば見分けられる。でも、売る判断に要る夏の符号(現金に勝つか負けるか)は、100年分のデータでも決着しない
  • 持ち帰り:5月に売るかどうかを決めていたのは、月ではなく相場全体のトレンド。それは、カレンダーを見なくても値動きから分かる

第1部:「Sell in May」を3つに分ける

この格言にも、3つの主張が混ざっています。

  1. 冬は夏より強い
  2. 夏は下がる
  3. だから5月に売って、11月に買い戻すのが得だ

1は正しい。2は向きの話で、データでは決着がつかない。3は時期によって正反対になる。順に見ていきます。


第2部:大きさ——冬が強いのは、本物

これまでこのシリーズで扱ってきた季節の話(1月効果、月末・月初、10月の暴落)は、数え直すと小さくなるか、消えるものばかりでした。Sell in May は違います。

  • Bouman & Jacobsen(2002, American Economic Review):37市場中36市場で、11〜4月のリターンが5〜10月を上回る
  • Jacobsen & Zhang(SSRN ワーキングペーパー):108市場・1693〜2011年の319年分に広げても、冬と夏の差は平均4.52%(t値9.69)。しかも、最初の論文が出たあとの期間でも、37市場すべてで差はプラス
  • そして日本は、108市場の中で差がいちばん大きい市場です。冬−夏の差は8.31%(t値3.60)、冬が夏を上回った年は66%

日経平均だけで見ても同じです。マネックス証券の吉野貴晶氏の集計では、1949年以降、10月末→4月末で上がったのは76回中55回(72%)。偶然で(上がる確率が五分五分として)ここまで偏る確率は、**約0.01%**です(筆者の試算)。

1949年以降の平均は、冬(11〜4月)が**+8.41%、夏(5〜10月)が+2.43%**(issoh.co.jp の集計)。冬が夏より強いことは、疑う理由がありません。


第3部:向き——「冬より弱い」は「現金より弱い」ではない

問題は、ここからです。

5月に売るとき、手放すのは「冬」ではありません。手放すのは夏の株で、代わりに持つのは現金です。だから、売る判断で比べるべきなのは「冬 vs 夏」ではなく、**「夏の株 vs 現金」**です。

ところが、日本の夏は平均するとプラスです。

  • 1949年以降、5〜10月の平均:+2.43%(issoh.co.jp)
  • 1949年6月以降、4月末→9月末の平均:+1.5%(野村證券)
  • 1949年以降、4月末→10月末で上がった回数:76回中40回(52%)(吉野氏)

52%は、偶然と区別がつきません(偶然でこれ以上に偏る確率は約73%。筆者の試算)。**夏は「下がる季節」ではなく、「上がるか下がるか五分五分で、平均すると少しプラスの季節」**です。

日本の預金金利がほぼゼロだった時期に、平均+2.43%の季節を現金で過ごせば、その分をまるごと手放します。建玉37万5,000円なら、平均で約9,100円。冬が夏より約6ポイント強くても、夏が現金より弱いことにはなりません。

差は測れる。符号は測れない

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

日経平均の月間騰落率のブレを5.5〜6%と置くと、半年のブレは**13.5〜14.7%**です。この前提で、統計的に見分けるのに何年分のデータが要るかを計算すると(筆者の試算)、

見分けたいもの必要な年数
冬と夏の差(約6ポイント)があるか39〜46年
夏が現金に勝つか負けるか(平均+2.43%なら)118〜141年
同(平均+1.5%なら)310〜369年

77年分あれば、差は見分けられます。だから第2部の結果は信用できる。でも、5月に売る判断に必要なのは差ではなく、夏の符号です。そちらは、100年分のデータがあっても決着しません。

統計が本物でも、その統計が答えている問いと、自分が判断したい問いがずれている。 Sell in May の落とし穴は、ここにあります。


第4部:時期——夏の符号を決めていたのは、月ではなくトレンド

では、5月に売るのが正解だった時代はないのか。あります。

日経平均で、1991年10月〜2023年4月の約30年を半年ずつ持った場合の試算があります(THE GOLD ONLINE、なのなの氏)。

  • 冬(11〜4月)だけ持つ:100 → 約391
  • 夏(5〜10月)だけ持つ:100 → 約47

夏だけ持つと、資産は半分以下に減っています。年率に直すと約−2.4%(筆者の換算)。この時代は、5月に売って正解でした。

ところが、同じ試算で2013年4月〜2023年4月の10年に絞ると、

  • 冬だけ持つ:100 → 約125
  • 夏だけ持つ:100 → 約171

逆転しています。さらに吉野氏の集計では、2019年以降は7年連続で4月末→10月末が上昇、2025年は約**+45%でした(4月末 約3万6,045円 → 10月末 約5万2,411円)。建玉37万5,000円なら、5月に売った人が見送った値上がりは約16万9,000円**です。

学術側にも、似た指摘があります。Maberly & Pierce(2003, Asia-Pacific Financial Markets)は、日本のハロウィーン効果は1986年9月の日経225先物の導入前に集中していて、1980年代半ばの金融市場の国際化以降は消えると報告しています(Jacobsen & Zhang は逆に、公表後も効果は続いていると主張しています。第6部で扱います)。

1991〜2012年は、日経平均がバブル崩壊後に下げ続けた時代です。2013年以降は、上げ続けた時代です。並べると、こう読めます。

冬と夏の差がおおむね一定でも、その上に乗っている相場全体のトレンドが、夏の符号を決めている。 下げトレンドの時代には夏がマイナスになり、上げトレンドの時代には夏もプラスになる。

これは筆者の解釈で、証明ではありません。ただ、もしそうなら、「今年の夏は売るべきか」を決める情報は、カレンダーではなくトレンドの側にあります。そしてトレンドは、移動平均線で順張りで書いたとおり、値動きから毎日観測できます。


第5部:実務——月の名前で降りず、比べる相手を確かめる

持ち帰りは3つです。

1. 統計を見たら、「何と何を比べているか」を確かめる。

「冬は夏より強い」は、冬と夏を比べた統計です。売る判断は、夏の株と現金を比べる判断です。比較の相手が違えば、同じ統計でも答えになりません。季節のアノマリーに限らず、「Aは平均よりBが強い」という話を聞いたら、自分の選択肢がAとBなのかを先に確かめます。

2. 月の名前で降りない(10月の暴落説の、半年版)。

「10月は暴落しやすい」は本当かの持ち帰りは「月の名前で降りない」でした。Sell in May は、その判断を半年まとめて行うものです。「5月だから全部減らす」は、持っている銘柄の値動きとは無関係に、全部を同じだけ減らす判断です。順張りの出口は、銘柄ごとの損切り価格とトレンドの崩れで決めます。11月に買い戻すのも同じで、入口の条件に月の名前を入れないのと同じ理由で、全銘柄に同時に成り立つ日付は候補を選り分けません。

3. 縮めるなら、月ではなくトレンドとブレ幅を理由にする。

第4部のとおり、夏に売って正解だった時代は、相場全体が下げトレンドだった時代でした。それなら、5月かどうかではなく、指数のトレンドが崩れているか、ブレ幅が広がっているかを見れば足ります。縮め方は相場が崩れた時の現金比率の「株式比率=目標のブレ幅÷直近20日のブレ幅」をそのまま使えます。これなら、5月以外に来る下げにも同じように対応できます。

ついでに1つ。含み益のある株を毎年5月に売ると、そのたびに利益が確定して税金を先に払うことになります。年末の損出しと損益通算で書いた「税を後ろにずらす価値」の逆で、金利が低いうちは金額は小さいものの、得になる方向ではありません。


第6部:自分に不利な材料

  1. 効果は弱まるどころか、強まっているという研究があります。Jacobsen & Zhang は、公表後の期間でも37市場すべてで差がプラス、平均の差は公表前より大きかった(8.87% vs 8.16%)と報告し、「効果は近年むしろ強まっている」と結論づけています。第4部の Maberly & Pierce とは、日本についての結論が食い違っています
  2. 売る戦略そのものが、長期では買い持ちに勝ってきた市場があります。英国の約300年分(配当を含まない価格指数)では、夏を現金で過ごす戦略が買い持ちに勝った年が63%、10年単位なら**92%**です。英国では、夏が現金に負ける年のほうが多かったことになります。ただし、英国の金利は日本より長く高い水準にあり、現金の側が強かった時代が長い点には注意が要ります
  3. 冬の72%は偶然ではありません。第3部で「夏の符号は決着しない」と書きましたが、「冬は強い」のほうは0.01%水準で本物です。冬に多めに持つという使い方なら、この記事の批判は当たりません
  4. 半年に1回の売買なので、コストはほとんどかかりません。手数料ゼロ時代の実効コストで書いたとおり、コストは回数に比例します。年2回なら、コストで負ける戦略ではありません
  5. 「2019年以降の7年連続」も、たった7回です。第4部の「時期」の議論は、上げ相場の偶然を拾っているだけかもしれません。30年と10年の試算も、どちらも1本の価格の歴史から切り出したもので、同じ弱点を持っています

留保

  • 上昇確率の検定、検出に必要な年数、年率換算、建玉の換算は、公表値をもとに筆者が計算したものです。検定は「上がる確率が五分五分」という単純化で行っています
  • 日経平均の月間騰落率のブレ(5.5〜6%)は仮定で、実データからの計算ではありません。半年のブレは月のブレ×√6で近似しています
  • 夏・冬の平均騰落率と上昇回数は第三者の集計で、集計期間の区切り方(5〜10月/4月末→9月末/4月末→10月末)が資料ごとに違います。筆者は元データで再計算していません
  • 1991〜2023年・2013〜2023年の試算は、冬・夏の数値を掛け合わせても買い持ちの数値と一致しません(端数や期間の取り方によるものと考えられます)。本文では向きの比較にだけ使いました
  • 日経平均は配当を含まない価格指数です。3月末と9月末の配当の権利落ちは、それぞれ冬と夏の期間に入るので、実際に持っていた人の損益は表の数字とずれます
  • 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではありません

次に読む

  • 「10月は暴落しやすい」は本当か(記事060)——月の名前で降りない、という同じ持ち帰りの1か月版
  • 相場が崩れた時の現金比率(記事036)——「月」ではなく「ブレ幅」で建玉を縮める具体的な決め方
  • 移動平均線で順張り(記事021)——夏の符号を決めていた「トレンド」を、値動きから読む方法
  • 1月は上がりやすいのか(記事050)——月のアノマリーを確かめるのに100年以上かかる計算
  • 年末の損出しと損益通算(記事047)——税を後ろにずらす価値と、その逆

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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