「掉尾の一振」は本当か|「年末に向けて買っておく」をやめる。77年で7割上がったのは本当でも、上昇は大納会の“前の数日”に集まっていて、この11年は4回しか起きていないから
本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものではありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
リード
12月に入ると、毎年のように見かける言葉があります。
「掉尾(とうび)の一振(いっしん)」。魚が最後に尾を大きく振るように、年末の最終取引日(大納会)に向けて株価が上がる、という相場の言い伝えです。理由としては、ファンドが決算前に保有株の見栄えを整える「お化粧買い」や、新年への期待がよく挙げられます(大和証券の用語解説)。
このシリーズでは、節分天井・彼岸底や解散総選挙は買いを、同じ検査にかけてきました。その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか。今回も、日経平均の日々の終値を77年分用意して、自分で数え直しました。
先に言っておくと、偏りそのものは本物でした。それでも「年末に向けて買っておく」をやめたほうがいい理由が、3つ見つかりました。
結論:偏りは本物。ただし「数日の出来事」で、理由はわからず、最近は起きていない
- 大きさ:大納会までの最後の5営業日に日経平均が上がったのは、1949〜2025年の77年中53年(69%)。平均**+1.17%で、普通の5営業日(上昇55%・+0.21%)より強い。偶然でこれ以上偏る確率は約1%**
- 中身は数日:12月の半ば(大納会の15〜5営業日前)は平均**−0.06%で普通と変わらない。大納会の当日も77年中40年(52%)・平均±0%。上昇は大納会の2営業日前**(70%が上昇・平均+0.53%)を中心とした数日に集まっている
- 理由は特定できない:節税売りが終わる反動なら、譲渡益が原則非課税だった1989年以前には起きないはずだが、2営業日前の強さは1989年以前も同じ(+0.56% vs +0.50%)。「休場の前は上がる」なら大納会の当日が強いはずだが、強くない。どの説明も、時期が合わない
- 最近:2000〜2014年は15年中13年上がったのに、2015〜2025年は11年中4年。平均+0.14%で、普通の5営業日(同じ期間で+0.26%)を下回る
- 持ち帰り:年末を入口の条件にしない。12月の半ばに「年末に備えて」買い増す理由は、データからは出てこない。年末に確かめるのは、大納会から大発会までの長い休場をまたぐ一晩を、自分の建玉が受け止められるか
第1部:「掉尾の一振」を3つに分ける
この言い伝えにも、3つの主張が混ざっています。
- 年末(大納会に向けて)、株価は上がりやすい
- その理由は年末という時期にある(お化粧買い、節税売りの一巡、新年への期待、休暇の前の楽観など)
- だから12月の半ばに買っておけばいい
困るのは、1の「年末」がどこからなのか、決まっていないことです。日本投資機構の解説も「明確に定義されているわけではありません」と断ったうえで、「12月後半、特にクリスマス明けから大納会までの約1週間」を指すことが多い、としています。12月の月足で数える検証もあれば(Kaiji Lab、マネックス証券)、最後の5・10・15営業日で比べる検証もあります(日本投資機構)。
この記事では、大納会のN営業日前の終値から大納会の終値までを、Nを変えて全部数えます。
第2部:大きさ——偏りは本物
| 期間(大納会まで) | 上昇した年(77年中) | 上昇率 | 平均 |
|---|---|---|---|
| 最後の15営業日 | 47年 | 61.0% | +1.11% |
| 最後の10営業日 | 49年 | 63.6% | +1.19% |
| 最後の5営業日 | 53年 | 68.8% | +1.17% |
| 最後の3営業日 | 52年 | 67.5% | +0.84% |
| 12月の1か月(11月末→12月末) | 49年 | 63.6% | +1.18% |
日本投資機構の「5営業日が平均・勝率とも最も高い」、日本経済新聞の見出しの「勝率6割」、Kaiji Lab の「26勝14敗」と、筆者の集計は大きく食い違いません。
何と比べて強いのか
節分天井・彼岸底で確かめたとおり、右肩上がりの指数では「上がった」は5割より起きやすい出来事です。比べる相手は5割ではなく、普通の期間です。
- 普通の5営業日(1950年以降のすべての日を出発点にした1万9,070通り):上昇55.3%・平均+0.21%
- 77年なら、上がるのは約43年のはず。実際は53年。偶然でこれ以上偏る確率は約1.1%(筆者の試算)
- 平均の差は0.96ポイント、t値は3.41
もう1つ、別の比べ相手も用意しました。月末・月初は上がるで見たとおり、月末はもともと少し強い日です。12月以外の月の、最後の5営業日(851回)は、上昇60.3%・平均+0.38%でした。12月はこれも上回りますが、上昇の回数で比べると、偶然でこれ以上偏る確率は約8%で、平均の差(t値2.81)ほどはっきりしません。
まとめると、年末の5営業日は、普通の5日より確かに強く、普通の月末よりもおそらく強い。言い伝えの1は、数字で支持されます。
第3部:中身——「年末に向けてじわじわ」ではなく、数日の出来事
では、どこで上がっているのか。大納会の前の日々を、1日ずつ分けました。
| 日 | 上昇した年(77年中) | 上昇率 | 平均 |
|---|---|---|---|
| 大納会の15→5営業日前(10日間の合計) | 45年 | 58.4% | −0.06% |
| 4営業日前 | 45年 | 58.4% | +0.20% |
| 3営業日前 | 42年 | 54.5% | +0.14% |
| 2営業日前 | 54年 | 70.1% | +0.53% |
| 1営業日前 | 43年 | 55.8% | +0.30% |
| 大納会の当日 | 40年 | 51.9% | ±0.00% |
見えてくることが2つあります。
1つ目。12月の半ばは、何も起きていません。大納会の15営業日前から5営業日前までの10日間は、平均−0.06%です。「年末に向けて買っておく」つもりで12月の半ばに買っても、その10日間の上乗せは期待できません。最後の15営業日と最後の5営業日で平均がほぼ同じ(+1.11%と+1.17%)なのは、このためです。
2つ目。「尾を振る」のは大納会の当日ではありません。当日は77年中40年しか上がっておらず、平均はちょうど0%です。上昇がいちばん偏っているのは2営業日前で、1日の上昇率としては70%(偶然でこれ以上偏る確率は約0.6%)です。
第4部:理由——どの説明も、時期が合わない
なぜ2営業日前なのか。よく挙げられる説明を、時期で検査します。
節税売りの一巡説——1989年以前にも起きている
年末には、含み損の株を売って利益と相殺する「損出し」が出ます。年末の損出しで書いたとおり、年内に受け渡しを終えるための最終売買日は大納会の2営業日前です(2019年7月に受け渡しが3営業日目に短縮されてから。それ以前は3営業日前)。その日を過ぎれば節税の売りは止まるので、そこから戻る——という説明です。
ところが、1月効果の記事で使ったのと同じ材料があります。日本の個人の株式譲渡益は、1989年3月まで原則非課税でした。節税売りが存在しなかった時期に、この偏りはあったのか。
| 1949〜1989年(41年) | 1990〜2025年(36年) | |
|---|---|---|
| 2営業日前 | 28年上昇・平均**+0.56%** | 26年上昇・平均**+0.50%** |
| 3営業日前 | 27年上昇・平均+0.36% | 15年上昇・平均−0.12% |
| 最後の5営業日 | 30年上昇(73%)・+1.46% | 23年上昇(64%)・+0.85% |
2営業日前の強さは、税のなかった時代もほとんど同じです。節税売りは原因ではありません。
ただし、1つ興味深い変化があります。1990年以降は、3営業日前が弱くなっています(36年中15年しか上がらず、平均−0.12%)。この期間の大半は、3営業日前が年内の受け渡しに間に合う最後の日でした。節税の売りが最後の日に集中している、と読むと辻褄が合います。1月効果の記事で引いた研究と同じく、税は「寄与因子」ではありえても、偏りそのものの原因ではない、というのが今回のデータの形です。
休場前の効果説——大納会の当日が強くない
米国では、祝日の前の営業日は株が上がりやすいことが知られています(Ariel 1990, Journal of Finance。祝日前の日の平均リターンは、ほかの日の9〜14倍)。年末年始は1年でいちばん長い休場なので、その前は強い——という説明です。
比べ相手として、ゴールデンウィーク前の5営業日を数えると、77年中55年(71%)上昇・平均+0.90%でした。たしかに、長い休場の前は強いようです。
ところが、この説明がいちばん当てはまるはずの休場直前の日=大納会の当日が、77年でちょうど平均0%です。休場前の効果なら、上昇は最後の日に集まるはずで、2営業日前に集まる理由はありません。
お化粧買い説——検査できない
ファンドの決算に向けた買いなら、評価の基準になる大納会の終値に向けて買いが集まるはずです。ここでも当日の弱さが合いません。ただし、誰がいつ買ったかのデータは持っていないので、この説明は検査できていません。
結論として、偏りは本物でも、その理由はわかりません。 そして理由のわからない偏りには、次に続く保証もありません。
第5部:最近——この11年は4回
年代で分けると、もう1つの事実が出てきます。
| 期間 | 上昇した年 | 平均(最後の5営業日) | 普通の5営業日(同じ期間) |
|---|---|---|---|
| 1949〜1989年 | 41年中30年(73%) | +1.46% | +0.32% |
| 1990〜2025年 | 36年中23年(64%) | +0.85% | +0.08% |
| 2000〜2014年 | 15年中13年 | +1.62% | — |
| 2015〜2025年 | 11年中4年(36%) | +0.14% | +0.26% |
2015年以降の11年で上がったのは、2015・2020・2023・2024年の4回だけです(2021年は−0.02%で、ほぼ横ばい)。平均は普通の5営業日を下回っています。2000〜2014年との差が偶然で出る確率は約1.4%(筆者の試算)。この11年に限れば、掉尾の一振は「起きない年のほうが多い」言い伝えです。
ゴールデンウィーク前も同じ形で、2015年以降は12年中7年・平均−0.22%に弱まっています。12月以外の月末も、1989年以前の平均+0.56%から、1990年以降は+0.19%に縮んでいます。
これが「知られたから消えた」のか、たまたま弱い年が続いただけなのかは、11年では区別できません。ただ、少なくとも「最近も毎年のように起きている」とは言えません。
第6部:その後——年末に売る理由も、ない
逆の方向も確かめておきます。「年末に上がるなら、大納会で降りておけばいい」とも言えないのか。
- 大発会(年明けの最初の日):77年中42年上昇、平均+0.20%
- 大納会から20営業日後:77年中52年上昇(68%)、平均**+2.20%**
年が明けても、平均では弱くなっていません。月末・月初の記事で「月をまたぐ上乗せのほとんどは12月末から1月初」と書いたのと同じ形です。年末の上昇は、1月まで続く季節の一部と見るほうが自然で、大納会を「降りる日」にする理由も、データからは出てきません。
ただし、大発会には別の性質があります。値動きが大きいのです。大発会の1日の値動き(絶対値の平均)は**1.28%**で、普通の日(0.85%)の1.5倍。2000年以降では1.79%で、±2%を超えた年は77年中19年(25%。普通の日は9%)ありました。2008年は−4.03%、2016年は−3.06%、2026年は+2.97%です。
第7部:実務——年末を入口にせず、休場をまたぐ一晩を見る
持ち帰りは3つです。
1. 年末を入口の条件にしない。
77年の平均の上乗せ(0.96ポイント)は、資金の逆算で使ってきた建玉37万5,000円なら約3,600円。1年に1回で、ブレ幅(1σ)は約9,300円あります。そしてこの11年の平均では、上乗せはマイナスです。さらに、入口の条件に月の名前を入れないのと同じ理由で、「年末だから」は全銘柄に同時に成り立ち、候補を選り分けません。
2. 12月の半ばに「年末に備えて」買い増さない。
第3部のとおり、12月の半ばの10日間は普通と変わりません。上昇は、あるとしても最後の数日です。「年末までに仕込んでおく」という動機で買い増しても、その分の上乗せはデータに出てきません。買い増すなら、理由はいつもどおり銘柄ごとの条件です。
3. 年末に確かめるのは、休場をまたぐ一晩。
大納会から大発会までは、大晦日と三が日に土日が重なり、少なくとも4日間の休場です。その間に海外で起きたことは、すべて大発会の寄り付きで一度に織り込まれます。逆指値は、寄り付きまで動きません。決算発表の翌朝や選挙の翌朝と同じく、逆指値で止められない窓が、年末年始には毎年必ず1回あります。
年を越して持つなら、確かめるのは「掉尾の一振が来るか」ではなく、大発会に±3〜4%の窓が開いたとき、自分の損切り価格を飛び越えても許容損失の範囲に収まる建玉かです。収まらないなら、大納会の前に株数を減らしておきます。
第8部:自分に不利な材料
- 77年での偏りは、偶然ではまず出ない大きさです。最後の5営業日の上昇は約1%、2営業日前の上昇は約0.6%の確率でしか偶然には起きません。「掉尾の一振は迷信」とは言えません
- 最近11年の弱さは、11回の話です。77年の上昇率(69%)が本当の確率だとしても、11回中4回以下になる確率は約2.7%あります。消えたと断定はできません
- 12月は月全体でも強めです。11月末から12月末の1か月で平均+1.18%(普通の20営業日は約+0.84%)。最後の数日以外にも、弱い上乗せが散らばっている可能性はあります
- 3営業日前の弱さ(1990年以降)は、税が寄与している可能性を示しています。第4部で「節税売りは原因ではない」と書きましたが、年末の値動きにまったく効いていないとは言えません
- 日経平均は配当を含まない指数です。12月決算の会社の配当落ちは年末の数日に重なるため、配当込みで測れば、最後の数日の上昇はもう少し大きく出る可能性があります
留保
- 集計に使った日経平均の終値は、日本経済新聞社の公表値を米セントルイス連銀(FRED)経由で取得したものです。上昇回数・平均・t値・二項検定・フィッシャーの正確検定・建玉の換算は、すべて筆者が計算したものです
- 「大納会」は、各年12月の最後の営業日としました。大納会の日付(12月28日〜30日)や、かつての半日取引の扱いは年によって違います
- 「普通の5営業日」は、1950年以降のすべての営業日を出発点にした値で、期間が重なり合っています。t値は簡易的なもので、厳密な検定ではありません
- ゴールデンウィーク前は「4月20日〜5月2日のうち最後の営業日」までの5営業日としました。年によって連休の長さは違います
- 受け渡しの最終日は、2019年7月16日約定分からの3営業日目受け渡し(T+2)を前提にしています。それ以前の期間は4営業日目(T+3)でした
- 第三者の集計は、期間の定義(月足か、最後の何営業日か)や対象年がそれぞれ違うため、数値を直接比べることはできません
- 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではありません
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免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものではありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。