「解散総選挙は買い」は本当か|「選挙が近いから買う」をやめる。19回中18回上がったのは本当でも、上がっていたのは“選挙”ではなく“首相が日付を選んだ選挙”で、日付が決まった時にはもう動いているから

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもなく、特定の政党・政治家を支持・批判するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

首相が衆議院の解散を検討している——そんなニュースが流れると、決まって出てくる言葉があります。

「解散総選挙は買い」。衆議院が解散されると、投票日まで株価が上がりやすい、という相場の言い伝えです。「過去ほぼ全勝」という言い方もよく見かけます。

このシリーズでは、節分天井・彼岸底やSell in Mayを、同じ検査にかけてきました。その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか。前回と同じく、今回も日経平均の日々の終値を手元に用意して、自分で数え直しました。

先に言っておくと、今回は「当たらない」という話ではありません。数え直すと、この言い伝えはシリーズでいちばん強い偏りでした。それでも「選挙が近いから買う」をやめたほうがいい理由が、3つ見つかりました。


結論:偏りは本物。ただし、上がっていたのは「選挙」ではなく「解散」

  • 大きさ:1969年以降の解散19回のうち、解散から投票日まで日経平均が上がったのは18回。平均**+3.45%で、同じ長さの普通の期間(+0.78%)の4倍強。偶然でこれ以上偏る確率は約0.05%**。季節でも、直前の勢いでも説明できない
  • ただし数え方の起点がある:1952〜1966年の7回は3勝4敗。「1963年以降19連勝」という紹介もあるが、筆者の集計では1963年と1966年は下落。連勝は1969年から始まる
  • 対照実験:日付が法律で決まっている参院選では17回中10回(59%)=普通の確率でしか上がっていない。任期満了だった1976年の衆院選も下落。上がっていたのは「選挙」ではなく、首相が日付を選んだ選挙
  • 時期:2026年は、解散検討の報道から解散前日までに**+3.37%、言い伝えの期間(解散〜投票日)は+1.05%、投票翌日に+3.89%**。大きく動いたのは、言い伝えの期間の外だった
  • 選挙の後:投票の20営業日後に投票前より高かったのは19回中8回(42%)。普通の20営業日(59%)より少ない。「選挙後も上がる」は支持されない
  • 持ち帰り:解散を入口の条件にしない。持っているなら、解散を理由に買い増さず、投票日を理由に持ち越さない。選挙の期間に確かめるのは、投票翌朝の窓(ギャップ)を自分の建玉が受け止められるか

第1部:「解散総選挙は買い」を3つに分ける

この言い伝えにも、3つの主張が混ざっています。

  1. 解散から投票日まで、株価は上がりやすい
  2. その理由は「選挙」そのものにある(政策への期待、選挙前の景気対策、政権が安定するという安心感など)
  3. だから解散が決まったら買えばいいし、選挙のあとも上がる

よく引用される検証は、ほとんどが1だけを見ています。「解散の前営業日の終値と、投票日の前営業日の終値を比べて、上がっていれば的中」という数え方です。この記事でも、基本はこの数え方を使います。


第2部:大きさ——数え直すと、本当に強い

第三者の集計を並べると、こうなります。

集計期間結果
三井住友DSアセットマネジメント(2024年10月)1969年以降17回すべて上昇
ニッセイ基礎研究所(2024年11月)2000年以降8回すべて上昇
日本投資機構(2026年)1969年以降18回中17回(2024年のみ下落)
松井証券(2026年1月)1970年以降17回中15回

筆者の集計(解散の前営業日→投票日の前営業日)では、1969年以降の19回(2026年2月の選挙を含む)のうち、上がったのは18回でした。下がったのは2024年10月の1回だけ(−2.63%)です。

何と比べて強いのか

節分天井・彼岸底で確かめたとおり、右肩上がりの指数では「上がった」は5割より起きやすい出来事です。解散から投票日までは平均18営業日。日経平均の普通の18営業日で上がる確率は**58.4%**でした。

  • 普通の18営業日なら、19回中で上がるのは約11回のはず
  • 実際は18回。偶然でこれ以上偏る確率は約0.05%(筆者の試算)
  • 平均の上昇率は**+3.45%。普通の18営業日(+0.78%)との差は2.67ポイントで、t値は3.08**

節分〜彼岸の弱さは「5%水準でぎりぎり」でしたが、こちらは桁が違います。このシリーズで検査してきた言い伝えのなかで、いちばん強い偏りです。

すぐ思いつく別の説明も、2つ確かめました。

  • 季節では説明できない:解散は秋から年末に多いので、「その時期がもともと強いだけ」かもしれません。そこで、各回と同じ暦の期間を、ほかの年で測りました。期待される上昇回数は約11回、平均は+0.60%。普通と変わりません
  • 直前の勢いでも説明できない:首相は株価が強いときに解散するのかもしれません。そこで「直前の60営業日が上がっていた期間」だけを比べ相手にしても、期待される上昇回数は約11.5回にしか増えません

ただし、「起点」は選ばれている

一方で、数字の食い違いもあります。日本経済新聞の調査として「1963年以降、2021年まで19回連続で上昇」という紹介がありますが、筆者の集計では1963年(−4.67%)と1966年(−1.41%)は下落でした。1952〜1966年の7回に広げると、成績は3勝4敗です。

よく見る「1969年以降」という区切りは、ちょうど連勝が始まる年です。新高値銘柄の探し方で書いた「条件を何通りも試すと、実力ゼロでも効いて見える」と同じ形が、起点の選び方に入っています。

ただし、それで偏りが消えるわけではありません。戦後の26回すべてで数えても21回(81%)、偶然でこれ以上偏る確率は約1.4%です。起点を割り引いても、偏りは残ります。

数え方の違いも1つ挙げておきます。基準を「解散の前営業日」ではなく「解散当日」の終値にすると、1969年以降は19回中17回になります(2003年が−1.46%、2024年が−3.47%)。松井証券の「17回中15回」は、この数え方と一致します。


第3部:対照実験——上がっていたのは「選挙」ではなく「解散」

ここからが、自分でデータを持った意味のあるところです。

第1部の2——「選挙そのものが買い材料だ」——が正しいなら、ほかの選挙でも同じことが起きるはずです。日本には、ちょうどいい比べ相手があります。

参議院選挙です。参院選は3年ごとに、法律で決まった時期に行われます。首相が日付を選ぶことはできません。全国規模の国政選挙で、各党は政策を訴え、結果は政権運営を左右します。違うのは、日付を誰が決めたかだけです。

投票日の前の18営業日(衆院の平均と同じ長さ)で比べると、こうなりました。

回数上昇上昇率平均
衆院選(解散)1969年以降19回18回95%+3.45%
参院選(日付が決まっている)1969年以降17回10回59%+1.45%
普通の18営業日——58%+0.78%

※参院選は衆参同日選挙(1980年・1986年)を除く。1976年の衆院選は解散ではなく任期満了で、公示日から投票前営業日まで−0.49%

参院選の上昇率59%は、普通の18営業日(58%)とほとんど同じです。衆院選との差が偶然で出る確率は約1.6%(筆者の試算)。そして、解散のなかった1976年の任期満了選挙は下がっています。

上がっていたのは「選挙があるから」ではありません。「首相が日付を選んだ選挙」だから、と読むのが自然です。

なぜ日付を選ぶと上がるのか。筆者の解釈ですが、首相が解散を選ぶのは、普通は「勝てる」と見た時期です。支持率が高い、景気対策を打ち出したばかり、野党の準備が整っていない。その判断材料の一部は、市場が評価する材料と重なります。つまり、解散そのものが株価を上げているのではなく、株価が上がりやすい時期に解散が選ばれている可能性があります。ただし、この記事のデータでは、因果の向きまでは確かめられていません。


第4部:時期——日付が決まった時には、もう動いている

言い伝えの期間は「解散から投票日まで」です。でも、解散の日付は、たいてい解散の前に報道されます。

いちばん新しい2026年の例で見ます。

区間日付日経平均の騰落
解散検討の報道 → 解散の前営業日1月9日 → 1月22日+3.37%
言い伝えの期間(解散 → 投票日の前営業日)1月22日 → 2月6日+1.05%
投票日の翌営業日2月6日 → 2月9日+3.89%

首相が通常国会の冒頭で解散を検討している、という報道が出たのは1月9日の23時台でした(野村證券のレポートより)。連休明けの1月13日、日経平均は1日で1,609円上がり、翌14日に史上最高値を更新しています。言い伝えの期間が始まる前に、上昇の大きな部分はもう起きていました。そして投票の結果(自民党が316議席、与党で3分の2以上)は、日曜の夜に決まり、月曜の朝の寄り付きで一度に織り込まれました。

ストップ高の翌日で書いた「その上昇は誰が受け取るか」と同じ形です。報道の前から持っていた人と、投票日をまたいで持っていた人が受け取り、「解散が決まったから買おう」と動いた人の取り分は小さかった、というのが2026年の形です。

2024年は逆でした。与党の新しい総裁が決まった直後の9月30日(総裁選は9月27日の大引け後に決着)、日経平均は1日で−4.80%下がり、早期の解散が決まったあとも、解散から投票日までは−2.63%でした。言い伝えの期間だけを見て「今回も上がる」と判断した人にとって、この回は唯一の外れでした。

1回の例から一般化はできません。ただ、解散の日付が公表された時点で、その日付を知っているのは全員です。全員が知っている日付から始まる期間の上昇を、自分だけが受け取れると考える理由はあまりありません。


第5部:選挙の後——勢いは続かない

最後に第1部の3、「選挙のあとも上がる」を見ます。

1969年以降の19回で、投票の後の値動きを数えました。

  • 投票翌日:上昇9回・下落10回、平均+0.40%。ただし値動きの大きさ(絶対値の平均)は1.24%。上にも下にも、一晩で大きく動く
  • 20営業日後:投票前より高かったのは19回中8回(42%)、平均**−0.08%**。普通の20営業日(上昇59%・平均+0.84%)より弱い
  • 60営業日後:平均+2.77%で、普通の60営業日(+2.55%)とほぼ同じ

ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏も、2000年以降の8回で、投票後12週間(約3か月)まで投票直前より高い水準を保ったのは3回だけと報告しています。

20営業日後の弱さは、偶然と区別がつくほどではありません(偶然でこれ以下になる確率は約11%)。言えるのは、選挙前の強さは、選挙の後には持ち越されていないということまでです。


第6部:実務——解散を入口にせず、投票翌朝の窓を見る

持ち帰りは3つです。

1. 解散を入口の条件にしない。

偏りが本物でも、入口の条件には向きません。理由は3つあります。

  • 回数が少ない:解散は57年で19回、3年に1回です。平均の上乗せ(2.67ポイント)は、建玉37万5,000円なら約1万円。1回ごとのブレは±約1万4,000円あります
  • 全銘柄に同時に成り立つ:入口の条件に月の名前を入れないのと同じで、「解散が決まった」は候補を選り分けません。指数が上がっても、持ち株が上がるとは限りません
  • 日付を選んでいるのは首相:第3部のとおり、偏りの正体が「株価が上がりやすい時期に解散が選ばれる」ことなら、その判断の中身は外からは見えません。2024年のように、選ばれた時期が良くなかった回もあります

2. 持っているなら、解散を理由に買い増さず、投票日を理由に持ち越さない。

解散から投票日まで平均ではプラスでしたから、「選挙前に降りておく」理由も、データからは出てきません。一方で、第5部のとおり「選挙後も上がる」とは言えません。どちらの方向にも、選挙の日付で判断を変えないのが、データに合った扱いです。降りる理由は、いつもどおり銘柄ごとの損切り価格とトレンドの崩れです。

3. 選挙の期間に確かめるのは、投票翌朝の窓(ギャップ)。

投票は日曜日で、結果は日曜の夜に決まります。逆指値は月曜の朝の寄り付きまで動きません。決算発表の翌朝と同じく、逆指値で止められない一晩が、選挙には必ず1回あります。

投票翌日の値動きの大きさは平均1.24%で、2026年は+3.89%、2024年は+1.82%でした。上に開くとは限りません。選挙をまたいで持つなら、確かめるのは「選挙は買いかどうか」ではなく、翌朝に窓が開いたとき、自分の損切り価格を飛び越えても許容損失の範囲に収まる建玉かです。収まらないなら、選挙の前に株数を減らしておきます。


第7部:自分に不利な材料

  1. 偏りは、偶然ではまず出ない大きさです。1969年以降の18勝1敗は、普通の確率なら約0.05%でしか起きません。起点を1952年に戻しても約1.4%です。「選挙は買いは迷信」とは言えません
  2. 最近も続いています。2000年以降に限っても10回中9回の上昇、平均+4.02%でした。この言い伝えは少なくとも2000年代から雑誌やレポートで繰り返し紹介されていますが、知られると消える、という典型的な形にはなっていません
  3. 参院選も、平均は普通より高めです。上昇率は普通と同じ59%でしたが、平均は+1.45%で、普通の18営業日(+0.78%)を上回っています。「選挙そのものの効果はゼロ」とまでは言えません
  4. 言い伝えの期間は、普通の期間よりブレが小さいです。解散から投票日までの騰落のばらつき(標準偏差3.78%)は、普通の18営業日(5.28%)より小さい。上がりやすく、しかも荒れにくい期間だったことになります
  5. 第3部の「日付が選ばれている」は、筆者の解釈です。首相の判断と市場の材料が重なっている、という説明は、データと矛盾しませんが、確かめたわけではありません。選挙の前の景気対策や、政策への期待が直接効いている可能性もあります

留保

  • 集計に使った日経平均の終値は、日本経済新聞社の公表値を米セントルイス連銀(FRED)経由で取得したものです。上昇回数・平均・t値・二項検定・フィッシャーの正確検定・建玉の換算は、すべて筆者が計算したものです
  • 解散日と投票日は、戦後の衆議院解散の一般に知られた日付を使いました。1952年8月の解散以前(1949年1月の選挙など)は、データの都合で含めていません
  • 参院選の比較期間は「投票日の前の18営業日」で、衆院選の「解散から」とは始まりの決め方が違います。参院選の公示から投票日までは17日間です
  • 「普通の18営業日」は、1950年以降のすべての営業日を出発点にした値で、期間が重なり合っています。t値は簡易的なもので、厳密な検定ではありません
  • 2026年の報道の日時と、2024年の首相の発言の時点は、第三者の報道・レポートに基づきます。報道が市場に織り込まれた時点は、資料によって前後する可能性があります
  • 第三者の集計は、基準日の取り方(解散の前営業日か当日か)や対象の回数がそれぞれ違うため、数値を直接比べることはできません
  • 本記事は特定の時期・銘柄の売買を推奨するものではなく、特定の政党・政治家の評価を目的としたものでもありません

次に読む

  • 「節分天井・彼岸底」は本当か(記事064)——「5割」と比べず「普通の期間」と比べる、という同じものさし
  • 「ストップ高の翌日は上がる」は本当か(記事063)——上がるのは本当でも、その上昇を誰が受け取るのか
  • 「決算シーズンは荒れる」は本当か(記事059)——逆指値で止められない一晩と、建玉の逆算
  • 「月末・月初は上がる」は本当か(記事058)——全銘柄に同時に成り立つ日付は、候補を選り分けない
  • 新高値銘柄の探し方(記事042)——条件や起点を選ぶと、実力ゼロでも「当たって見える」計算

免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもなく、特定の政党・政治家を支持・批判するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


← 記事一覧へ戻る