「窓は必ず埋まる」は本当か|「窓埋めを狙って逆張り」をやめる。9割埋まるのは本当でも、それは窓の力ではなく、近くに引いた線ならどれでも触れるからで、触れることと儲かることは別だから
本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
リード
チャートの本には、たいていこう書いてあります。
「開けた窓は必ず埋まる」——。
前日の値幅と重ならない位置で寄り付くと、ローソク足のあいだに空白ができます。これが**窓(ギャップ)**です。そして、その空白はいずれ値動きで塗りつぶされる、というのがこの格言です。
新高値ブレイクで買った銘柄が翌朝ギャップアップすると、嬉しい反面、この言葉が頭をよぎります。「窓は埋まるから、一度戻るはず。いったん利確しておこうか」。逆に、ギャップダウンした銘柄を「窓埋めまで戻るはず」と拾いたくなることもあります。
このシリーズでは、SQ週、10月の暴落、Sell in Mayと、相場の“言い伝え”を同じ検査にかけてきました。その説明は、現象を作れるだけの大きさ・向き・時期を持っているか。今回はカレンダーではなく、チャートの言い伝えです。
先に言っておくと、「窓はよく埋まる」は本当です。ただし、それは窓の力ではありません。
結論:窓はよく埋まる。でも、それは「近くに引いた線なら、どれでも触れる」からで、触れることと儲かることは別
- 大きさ:東証全銘柄111万件では、窓の9割以上が60営業日以内に埋まる。ただし、窓の8割は1〜2%以内の小さな窓。10%以上の窓は、60日たっても約4割が埋まらない
- ものさし:でたらめな値動きのモデルでも、小さな窓は同じか、それ以上の割合で埋まる。「埋まる」は窓に戻す力がある証拠ではなく、近くの線に触れる確率が高いだけ
- 向き:米国株の1928〜2018年の研究では、ギャップの日の値動きは窓の方向に出やすく、「窓は埋まる」という俗説とは逆。日本でも、大きい窓ほど下窓のほうが埋まりにくい
- 儲かるか:窓埋めを利確目標にし、窓の1.5倍を損切りにすると、でたらめな値動きでも勝率は60%。そして期待値はゼロで、コストの分だけマイナス
- 持ち帰り:窓埋めを入口の理由にしない。自分の銘柄の窓が埋まっても、それは普通の揺れで、トレンドが終わった合図ではない
第1部:「窓は必ず埋まる」を3つに分ける
この格言にも、3つの主張が混ざっています。
- 窓はよく埋まる
- 埋まるのは、窓に値段を引き戻す力があるからだ
- だから、窓埋めを狙って売買すれば勝てる
1は正しい。2は、比べる相手(ものさし)を置くと消える。3は、確率と期待値の取り違えです。順に見ていきます。
第2部:大きさ——9割埋まるのは本当。ただし8割は小さな窓
いちばん大きな検証は、株の教科書(西村剛氏)の集計です。2020年1月〜2025年12月の東証全銘柄で、ギャップアップ59万5,666件・ギャップダウン50万5,059件、合計110万725件。窓は「始値が前日の高値より上(下は安値より下)」、埋まったとは「その後の安値が前日の高値まで戻った(下窓は逆)」で数えています。
ギャップアップの累積埋め率を抜き出すと、こうなります。
| 窓の大きさ | 件数 | 即日 | 5日 | 20日 | 60日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.5〜1% | 280,450 | 65.3% | 85.3% | 92.7% | 95.5% |
| 1〜2% | 197,133 | 51.0% | 77.4% | 88.5% | 92.6% |
| 2〜3% | 53,514 | 39.1% | 68.7% | 82.5% | 88.7% |
| 3〜5% | 33,110 | 31.4% | 60.6% | 76.4% | 83.8% |
| 5〜10% | 19,399 | 22.7% | 49.8% | 65.8% | 75.5% |
| 10%以上 | 12,060 | 11.9% | 32.3% | 48.0% | 60.1% |
件数で重みをつけると、60日以内に埋まった窓はギャップアップで91.9%、ギャップダウンで**93.1%**です(筆者の試算)。「窓は9割埋まる」は、数字のうえでは正しい。
ただ、表を縦に見てください。窓が大きくなるほど、埋まる割合ははっきり下がります。10%以上の窓は、60日たっても約4割が埋まりません。件数にすると、ギャップアップだけで約4,800件です。
そして、9割という数字を作っているのは、表のいちばん上の2行です。0.5〜2%の窓が全体の80.2%(ギャップダウンは77.0%)。5%以上の窓は**5.3%**しかありません。
「窓は必ず埋まる」と言われるときに思い浮かべるのは、たいてい大きく飛んだ窓です。でも、9割という数字はほとんど小さな窓から来ています。記憶に残る窓と、統計を作っている窓が違う——10月の暴落で「3回分の記憶」だったのと、同じ形です。
第3部:ものさし——でたらめな値動きでも、窓は同じだけ埋まる
では、9割という割合は「高い」のでしょうか。
高いかどうかは、比べる相手がないと言えません。そこで、**値動きがでたらめ(上がるか下がるかに偏りがなく、窓に引き戻す力もない)**だとしたら、窓はどれくらい埋まるかを計算してみます(筆者の試算。1日の値動きのブレを2.5%と置いた、ドリフトなしのランダムウォーク)。
始値から窓の下端(前日の高値)までの距離を、各区分の真ん中の値に置いています。
| 窓の大きさ | 即日 実際 | 即日 でたらめ | 5日 実際 | 5日 でたらめ | 60日 実際 | 60日 でたらめ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5〜1% | 65.3% | 76.4% | 85.3% | 89.3% | 95.5% | 96.9% |
| 1〜2% | 51.0% | 54.9% | 77.4% | 78.8% | 92.6% | 93.8% |
| 2〜3% | 39.1% | 31.7% | 68.7% | 65.5% | 88.7% | 89.7% |
| 3〜5% | 31.4% | 11.0% | 60.6% | 47.4% | 83.8% | 83.6% |
小さな窓は、でたらめな値動きのほうが、むしろよく埋まります。全体の8割を占める0.5〜2%の窓は、即日でも5日でも60日でも、実際の埋め率がモデルを下回っています。
言い換えると、「窓は9割埋まる」は窓の性質ではありません。始値から1%離れたところに、窓とは関係のない線を適当に引いても、60日以内にはほぼ同じ割合で触れる、ということです。値動きは毎日ぶれるので、近くにある線にはいずれ触れます。距離が遠いほど、触れる確率は下がる。表の「大きい窓ほど埋まらない」は、その当たり前の形をなぞっているだけです。
「必ず埋まる」の「必ず」も同じです。でたらめな値動きは、待つ時間を延ばせば、どんな水準にもいつかは触れます。「いつか必ず埋まる」は、チャートに引いたどの線についても言えるので、窓について何も言っていません。
一方で、3%を超える窓は、最初の数日にモデルより多く埋まっています(3〜5%の即日で31.4% vs 11.0%)。これは第6部で、自分に不利な材料として扱います。
第4部:向き——研究では、ギャップの日は「窓の方向」に動く
「窓に引き戻す力がある」なら、ギャップが出た日の値動きは、窓を埋める方向(上窓なら下)に偏るはずです。研究の結果は、逆を向いています。
- Plastun, Sibande, Gupta & Wohar(2020, North American Journal of Economics and Finance):米国のダウ平均・S&P500・NASDAQの1928〜2018年で、ギャップの日は価格がギャップの方向に動く傾向がある。結論で「窓は埋まるという俗説に反する」と書いています
- Caporale & Plastun(2017, Investment Analysts Journal):2000〜2015年のダウ平均・IBM・為替・原油・金などで、5日以内に埋まった窓は、ダウ平均で39%、どの市場でも50%未満。「最大80%の窓は5日以内に埋まらない」
日本の個別株でも、向きの手がかりがあります。第2部の検証では、大きい窓ほど、下窓のほうが埋まりにくい。10%以上の窓は、即日でギャップアップ11.9%に対してギャップダウン5.8%、60日でも60.1%に対して**56.4%**です。でたらめな値動きなら上下は対称のはずなので、悪い材料で下に飛んだ銘柄は、戻らずにそのまま進みやすい、と読めます(ただし、小さな窓の60日では下窓のほうがわずかに多く埋まっています)。
ただし、決算モメンタムの乗り方で紹介した検証には、反対向きの数字もあります。決算で大きくギャップアップした銘柄を寄り付きで買って当日の引けで売ると、平均−1.59%・勝率24.2%。その日のうちは窓を埋める方向に動いています。それでも、5日後まで見ると**平均+0.48%**とプラスに戻ります。
向きは、見る時間の長さで変わります。寄り付きから引けまでの数時間なら窓を埋める方向、数日なら窓の方向。どちらにしても、「窓は埋まるから、いずれ戻る」とひとくくりにはできません。
第5部:儲かるか——勝率60%で、期待値はゼロ
いちばん大事なのはここです。仮に窓がよく埋まるとしても、埋まることと、窓埋めを狙って儲かることは別です。
埋め率は「いつか一度でも触れたか」を数えた数字です。売買で必要なのは、「損切りに触れる前に、利確に触れたか」です。
第2部の記事では、窓埋めを狙う場合の目安として、損切りを窓の大きさの1.5倍程度に置く考え方が紹介されています。これを、でたらめな値動きに当てはめてみます。
利確(窓埋め)までの距離が1、損切りまでの距離が1.5なら、でたらめな値動きで先に利確に届く確率は 1.5 ÷(1 + 1.5)=60% です(筆者の試算。連続のランダムウォークでの到達確率)。
勝率60%。悪くなさそうに見えます。でも、期待値を計算すると、
- 窓2%・建玉37万5,000円なら、勝てば**+7,500円**、負ければ**−1万1,250円**
- 期待値=0.6 × 7,500 − 0.4 × 1万1,250 = 0円
ちょうどゼロです。そこから往復コストの下限(約623円)を引けば、1回あたりマイナスになります。利確を近く、損切りを遠くに置けば、勝率はいくらでも上げられる。でも、それは期待値を1円も増やしません。チキン利食いの「勝率と損益率を分けて見る」と、同じ話です。
しかも実際には、損切りの逆指値は翌朝のギャップで飛び越えられることがあります。第4部のとおり、大きな下窓は戻らずに進みやすいので、負けるときは予定より大きく負ける側に偏ります。
第6部:実務——窓埋めを入口にも出口にもしない
持ち帰りは3つです。
1. 「埋まる確率」を見たら、距離と日数を確かめる。
「窓の9割は埋まる」「この手法の勝率は8割」——こういう数字を見たら、何日待った数字か、どれだけ近い水準に触れた数字かを確かめます。近い線に、長く待てば、何でも高い確率で触れます。そして、比べる相手(でたらめだったら何%か)を置かないと、その数字が高いのか低いのかは言えません。
2. 窓埋めを、入口の理由にしない。
ギャップダウンした銘柄を「窓埋めまで戻るはず」と拾うのは、下がっている銘柄を買う逆張りです。第4部のとおり、大きく下に飛んだ銘柄ほど戻りにくく、第5部のとおり、勝率が高く見えても期待値は増えません。順張りの入口は、これまでどおり新高値と終値で決めます。
3. 自分の銘柄の窓が埋まっても、それだけで降りない。
新高値ブレイクの翌朝にギャップアップし、数日後に前日の高値まで戻ってくる——第2部の表では、1〜2%の窓の77.4%が5日以内に埋まります。つまり、窓埋めはブレイクのあとに普通に起きる揺れです。「窓が埋まったから、だましだった」と判断すると、ふつうの揺れで降りることになります。
だましかどうかは、ブレイクアウトのだましで書いたとおり、終値でブレイクした線の内側に戻ったかで判断します。損切りラインも、窓の下端ちょうどに置くと普通の窓埋めで刈られやすいので、損切りラインの決め方のとおり、自分の許容損失から逆算した位置に置きます。
第7部:自分に不利な材料
- 大きな窓は、最初の数日にモデルより多く埋まっています。3〜5%の窓は即日31.4%(モデル11.0%)、10%以上は5日で32.3%(モデル2.0%)。ただし、大きく飛んだ日はその銘柄自身の値動きのブレも大きくなっています。でたらめな値動きで実際の埋め率を再現するのに必要なブレを逆算すると、10%以上の窓の即日は1日8.3%、60日は3.2%(筆者の試算)。ギャップの日の荒れで説明できる範囲ですが、大きな窓に引き戻す力が多少あることは否定できません
- 当日の値動きだけなら、窓埋めの方向は実在します。第4部の決算の大幅ギャップアップは、当日の引けで平均−1.59%でした。寄り付きから引けまでの短い時間で売買するなら、窓を埋める方向に賭ける根拠はあります。ただし、本記事が対象にしているのは数日〜数週間のスイングです
- 米国と日本で、窓の定義が違います。Plastun らの研究は「始値が前日の終値と違う」をギャップとしていて、日本で言う窓(前日の高値・安値と重ならない)より広い。指数が中心で、個別株とは性質が違います
- 期待値ゼロは、でたらめな値動きを仮定した結果です。窓のあとに本当に戻す力があれば、窓埋め狙いの期待値はプラスになりえます。損切り1.5倍の売買を実データで検証した結果は、見つけられませんでした
- 検証期間は2020〜2025年の6年分です。上昇相場が長かった時期で、ギャップアップの窓が埋まりやすい・埋まりにくいという性質は、相場全体のトレンドで変わる可能性があります
留保
- でたらめな値動きの埋め率、ブレの逆算、勝率と期待値、件数の加重平均、建玉の換算は、公表値をもとに筆者が計算したものです。1日の値動きのブレ(2.5%)は仮定で、実データからの計算ではありません。ブレを2.0%と置くと、1〜2%の窓は実際のほうがモデルよりやや多く埋まります(即日51.0% vs 45.3%)。どちらの仮定でも、小さな窓で実際とモデルの差は数ポイントにとどまります
- モデルは連続のランダムウォークで、寄り付きから同じ日の値動きを1日分として扱っています。実際の場中は1日分より短く、即日の比較はモデルが多めに出ます
- 各区分の窓の大きさは区分の真ん中(0.5〜1%なら0.75%)で代表させました。10%以上の区分は13%と置いています
- 第2部の数字は第三者の集計で、筆者は元データで再計算していません。元の記事は、冒頭の要約(小さな窓の60日埋め率 約96%)と表の数字がわずかに違います
- 期待値の例では、ギャップや逆指値のすべりを考えていません
- 本記事は特定の銘柄・時期の売買を推奨するものではありません
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免責:本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。特定の銘柄・手法・時期の売買を推奨するものでもありません。記載の制度・統計・数値は執筆時点の公表資料および筆者の試算に基づくもので、その後変更・改訂されている可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。