NISAで順張り(モメチン)はできるのか|非課税は“お得”ではなく“レバレッジ”。しかも節税額には、資産がいくらでも同じ上限がある

本記事は情報提供を目的とした個人の見解であり、投資の勧誘・助言ではありません。筆者は税理士ではなく、記載の制度・税率は執筆時点のものです。個別の税務の取扱いについては、必ず国税庁の公表資料または税務署・税理士にご確認ください。投資判断はご自身の責任でお願いします。

リード

NISA口座を開くと、たいていこう考えます。

「利益が非課税になるなら、ここで売買したほうが得だろう」

私もそう考えました。成長投資枠は年240万円もあります。順張り(モメチン)のスイングで年に何度か回すくらいなら、十分に収まりそうに見えます。

ところが、制度の中身を一次資料で読んで、電卓を叩いた結果は逆でした。

NISAは非課税制度というより、損失の肩代わりをやめる制度です。特定口座では、損失が出ると国が税金の形でその20.315%を負担してくれています。NISAはその負担をなくす代わりに、利益の20.315%をくれる。差し引きすると、税引後の期待値もブレ幅も、同じ比率(約1.25倍)で増えます

期待値とブレ幅が同率で増えるということは、うまさの比率は1ミリも変わらないということです。それはレバレッジです。非課税ではありません。

そしてもうひとつ。年間投資枠240万円は金額で固定されています。だからこの記事で置く前提だと、年間の節税額は、総資産が300万円でも1,000万円でも約4,600円で頭打ちになります。一方で、NISAだからと損切りを1回だけ引っ張ったときのコストは、300万円の口座で45,000円、1,000万円の口座で150,000円です。


結論:NISAは「税率を変える制度」ではなく「年に何回入れるかを決める制度」

  • 特定口座の税は、勝てば取られるが負ければ肩代わりしてくれる。NISAはその肩代わりがない(損失は税務上ないものとされる)
  • その結果、NISAの税引後損益は特定口座の1.2549倍になる。期待値もブレ幅も同率で増えるので、リスクに対する効率は変わらない=実質はレバレッジ
  • したがってNISAが有利になるのは、その手法の期待値がプラスのときだけ。マイナスなら不利が拡大する
  • 年間投資枠240万円は買付ベースで、年内に売ってもその年は戻らない(簿価分が翌年復活)。この記事の資金逆算だと年6.4回しか入れられない
  • 枠が金額で固定なので、総資産が大きいほど年間エントリー回数は減り、節税額は約4,600円で頭打ちになる
  • いちばん危険なのは税額ではなく、口座が出口ルールを書き換えること。「NISAで買ったから握る」が起きた瞬間、節税額の10倍から30倍を失う
  • 対策は1つ。買う前に口座を決め、口座で出口を変えない

この記事は、期待値ポジションサイジング損切りラインで組み立ててきた設計に、税と制度という外側の枠を1枚足すものです。手法が先で、制度が後——という順番そのものが、この記事の主張になっています。


第1部:NISAは非課税制度ではなく、「国がリスクを分担するのをやめる」制度

まず一次資料を並べる

順番に確認します。

特定口座・一般口座(課税口座)の場合

上場株式等の譲渡益には、所得税及び復興特別所得税15.315%と住民税5%、合計**20.315%**がかかります(国税庁 No.1463・No.1476)。

そして損が出たときの扱いが重要です。上場株式等の譲渡損失は、上場株式等の配当等・譲渡益と損益通算でき、通算しきれない分は確定申告により**「その年分の翌年以後3年間にわたり」繰越控除**ができます(国税庁 No.1474)。源泉徴収選択口座(源泉徴収あり)であれば、同一口座内の譲渡損益は口座内で相殺されます(国税庁 No.1476)。

NISA口座の場合

利益は非課税です。そして損失については、国税庁が明確に書いています。

その上場株式等を売却したことにより生じた損失について、特定口座や一般口座で保有する上場株式等の配当等やその上場株式等を売却したことにより生じた譲渡益との損益通算や、繰越控除をすることはできません (国税庁 タックスアンサー No.1535「NISA制度」)

日本証券業協会の表現はもっと直接的です。

NISA口座では、上場株式や株式投資信託等の配当金や売買益等は非課税となる一方で、これらの売買損失は税務上ないものとされます (日本証券業協会「NISAのよくある質問」)

税務上ないものとされる。 この一文が、この記事のすべての出発点です。

特定口座の税は「国が損の20.315%を負担している」

ここからは考え方の話です。

特定口座で100万円の利益が出たら、20.315万円が引かれて、手元に残るのは79.685万円です。損したときのことはあまり意識されませんが、同じことが逆向きに起きています。

100万円の損が出て、それが同じ年の他の利益と通算できたとします。すると、本来払うはずだった税金が20.315万円だけ減ります。つまり税引後で見た損失は79.685万円です。100万円の損のうち、20.315万円は国が肩代わりしています。

利益も損失も、同じ0.79685倍になる。これが課税口座の姿です。

この構造は経済学では古くから知られていて、Domar と Musgrave が1944年の論文(Proportional Income Taxation and Risk-Taking, Quarterly Journal of Economics 58(3), 388-422)で整理しています。損失の控除が認められている比例税のもとでは、政府は投資家のリスクのパートナーになる。だから課税は必ずしもリスクテイクを抑制せず、投資家は税引前のポジションを大きくすることで税引後のリスク・リターンを元に戻せる、という議論です。

NISAは、このパートナーシップを解消します。利益の取り分を国が放棄する代わりに、損失の負担もしない。

計算すると、シャープレシオは変わらない

数字にします。

ある手法の税引前の1トレードあたり損益を X とします。損益通算が働く課税口座なら、税引後の損益は 0.79685 × X。プラスでもマイナスでも、同じ倍率がかかります。NISAなら 1.00 × X です。

ということは、NISAの税引後損益の分布は、課税口座の分布を1 ÷ 0.79685 = 1.2549倍に引き伸ばしただけのものです。

税引後の期待値税引後のブレ幅(標準偏差)期待値÷ブレ幅
特定口座(通算が効く場合)0.79685 × E0.79685 × σE ÷ σ
NISA口座1.0000 × E1.0000 × σE ÷ σ
1.2549倍1.2549倍1.0000倍

特定口座とNISAの税引後損益。期待値もブレ幅も同じ1.2549倍で伸びるため、期待値÷ブレ幅は変わらない

期待値が25.5%増える。ブレ幅も25.5%増える。比率は変わらない。

これは、特定口座のまま株数を25.5%増やしたのとまったく同じことです。NISAで買うという行為は、税制上の優遇であると同時に、気づかないうちに実行しているポジションの拡大でもあります。

だから、ポジションサイジングの記事で書いた「1トレードの許容損失を総資産の1%に置く」という設計に、NISAは黙って手を入れてきます。同じ株数なら、税引後で見た1回の負けは課税口座より25.5%大きい。「NISAだから多めに買う」は、二重にリスクを増やす行為です。

だからNISAが有利なのは、期待値がプラスのときだけ

もうひとつ、この式から出てくる帰結があります。

税引後の期待値は、特定口座が 0.79685E、NISAが E。NISAのほうが大きくなるのは E がプラスのときだけです。E がマイナスなら、NISAのほうが損が大きくなります。

当たり前に聞こえますが、実務上の意味は小さくありません。NISAは「とりあえず入れておけば得」な箱ではなく、自分の手法の期待値がプラスであることに賭ける制度です。まだ期待値がプラスかどうかわからない段階の手法をNISAに入れるのは、検証していない手法にレバレッジをかけるのと同じです。

期待値の記事で「勝率ではなく期待値で設計する」と書きました。その期待値の符号が、口座選びの分岐点になります。


第2部:制度が課してくるのは税率ではなく「年に何回入れるか」

枠の仕様を正確に押さえる

金融庁の説明から、必要な部分だけ引きます。

  • つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円。併用して年間360万円まで
  • 非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円が上限)
  • 非課税保有期間は無期限
  • 「商品を売却した場合、翌年以降売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ非課税投資枠が復活し、再利用が可能」
  • 成長投資枠からは整理・監理銘柄、信託期間20年未満・毎月分配型・デリバティブを用いた一定の投資信託等が除外される

順張りにとって決定的なのは4つ目です。売っても、その年の年間投資枠は戻りません。戻るのは翌年です。

つまり年間投資枠240万円は「同時に持てる金額」ではなく、その年に買い付けできる金額の総量です。1回37.5万円の買付を6回やって全部売っても、その年の残り枠は15万円のままです。

資金から逆算すると、年6.4回

エントリー前チェックリスト週末20分のスクリーニングで使った資金逆算を、そのまま持ってきます。

総資産300万円、1トレードの許容損失を総資産の1%(=3万円)、損切り幅を−8%とすると、1銘柄あたりの投資額は 3万円 ÷ 0.08 = 37.5万円

成長投資枠240万円 ÷ 37.5万円 = 6.4回

年に6回です。 週末にスクリーニングを回して、月に1〜2本の候補が出るペースだと、6月ごろには枠が空になります。あとの半年は、どれだけ良い形が出ても課税口座で買うしかありません。

資産が大きいほど、回せる回数は減る

ここが直感に反するところです。枠は金額で固定されているので、1銘柄あたりの金額が大きくなるほど回数は減ります。

総資産1銘柄あたり(許容損失1%・損切り−8%)成長投資枠で入れる年間回数
100万円12.5万円19.2回
200万円25.0万円9.6回
300万円37.5万円6.4回
500万円62.5万円3.8回
1,000万円125.0万円1.9回
2,000万円250.0万円1.0回

(1トレードの許容損失を総資産の1%、損切り幅を−8%とした場合の架空の計算例です)

口座が育つほど、NISAでスイングをやる余地は消えていきます。1,000万円の口座なら、成長投資枠で入れるのは年に約2回。これは「NISAを活用したスイング戦略」と呼べる回数ではありません。

節税額には、資産と無関係な上限がある

もっと直接的な数字を出します。

チキン利食いの記事で使った架空のケースB(勝率35%、勝ちは+12%、負けは−5%)を使います。1トレードあたりの期待値は +0.95% です。

年間にNISAで買い付けられる総額は240万円。だから、NISAの中で発生する税引前の期待利益は、

240万円 × 0.95% = 22,800円

そして節税額は、その20.315%です。

22,800円 × 20.315% = 4,632円

総資産が増えるほど年間エントリー回数は減り、節税額は約4,632円で頭打ちになる

この4,632円は、総資産が300万円でも1,000万円でも1億円でも変わりません。 枠が金額で固定されているからです。資産が増えれば1トレードは大きくなりますが、枠に入る回数がその分減るので、掛け算の答えは動きません。

もちろんこれは1つの前提のもとでの計算です。期待値がもっと高い手法なら節税額も比例して増えます。それでも構造は変わりません——成長投資枠でスイングをやったときの節税額は、年間240万円 × 手法の期待値 × 20.315% が上限であり、口座の規模とは無関係です。


第3部:非課税の価値は、保有期間ではなく「1回の買付が生む利益額」に比例する

同じ240万円を、握った場合と回した場合

なぜ回転させると非課税のうまみが小さくなるのか。理由は単純で、非課税になる金額=実現した利益額だからです。回転売買は、利益を小さく刻む行為です。

架空の前提で並べてみます。

A:240万円を1回だけ買って、20年持つ(年7%と仮定)

  • 20年後の評価額:約928.7万円
  • 利益:約688.7万円
  • 非課税の価値:688.7万円 × 20.315% = 約139.9万円

B:毎年240万円の枠を使い切って回す(1トレードの期待値+0.95%と仮定)

  • 年間の税引前期待利益:22,800円
  • 年間の非課税の価値:4,632円
  • 20年間の合計:約9.3万円

約15倍の差です。同じ制度、同じ枠、同じ240万円。違うのは、その240万円にどれだけ大きな利益を乗せたかだけです。

(どちらも架空の前提で、年7%も期待値+0.95%も保証された数字ではありません。Bを20年続けるという前提も現実的とは言えません。ここで見てほしいのは水準ではなく、差の向きです)

「非課税だから短期売買が得」は、順番が逆

この計算から見えるのは、NISAという制度が何を優遇しているかです。

NISAが優遇しているのは時間です。1回の買付を長く置いて、複利で大きくした人ほど、非課税額が大きくなる。逆に、買っては売り買っては売りを繰り返すと、1回あたりの利益が小さいので、非課税の対象そのものが小さくなります。

制度設計の側もそう見ているようです。金融庁は2023年11月に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を一部改正し、成長投資枠を用いた回転売買の勧誘について、法令上の要件に基づく監督・モニタリングを行う旨を明記しました(令和6年1月1日から適用)。

これは金融機関の勧誘行為に対する監督の話であって、個人が自分の判断で短期売買をすることを禁じるものではありません。ただ、制度をつくった側が「成長投資枠での回転売買」を望ましくないものとして名指ししているという事実は、押さえておく価値があります。制度の設計思想と自分の手法が逆を向いているとき、制度の側は自分に合わせてくれません。


第4部:本当に危険なのは税額ではなく、口座が出口ルールを書き換えること(この記事の核)

ここまでは金額の話でした。ここからは、金額よりずっと大きい話をします。

NISAで損切りするとき、頭の中で起きること

NISA口座で買った銘柄が、決めた損切りラインに来たとします。売りボタンの前で、こういう声が出ます。

  1. 「ここで切ったら、この損は税務上ないものになる」——課税口座なら他の利益と通算できたはずの損が、まるごと消えます
  2. 「この枠は今年もう戻らない」——買付に使った240万円の枠は、翌年まで復活しません
  3. 「せっかくの非課税枠を、マイナスで終わらせるのか」——枠を使ったのに利益がゼロどころかマイナス、という感覚

3つとも、銘柄の値動きとは1ミリも関係のない理由です。

そして3つとも、塩漬け株の記事で書いた「出口がないまま理由を後付けする」構造と、チキン利食いの記事で扱った処分効果(含み損は実現したくないという偏り)を、そのまま強化する方向に働きます。

NISAは、もともと人間が持っている「損を確定したくない」という偏りに、制度の側から追い風を送る口座です。これが、この記事でいちばん言いたいことです。

数字にすると、割に合わない

先ほどの節税額と並べます。

総資産300万円、1銘柄37.5万円の前提で、損切り−8%を守れずに−20%まで引っ張ったとします。追加の損失は、

37.5万円 × 12% = 45,000円

年間の節税額は4,632円でした。1回の躊躇で、1年分の節税額の約9.7倍を失います。

口座が大きいほど悪化します。

総資産年間の節税額(上限)損切りを1回引っ張ったときの追加損失
100万円約4,632円15,000円3.2倍
300万円約4,632円45,000円9.7倍
1,000万円約4,632円150,000円32.4倍

(いずれも前述の架空の前提での計算。損切り−8%を−20%まで引っ張った場合)

節税額は資産が増えても増えません。歪んだ判断のコストだけが、資産に比例して増えていきます。

「NISAで買ったから握る」は、口座が出口を決めている

損切りラインの記事でもエントリー前チェックリストでも、出口は値動きの言葉で決めると書いてきました。25日線を割ったら、直近安値を切ったら、−8%に触れたら。

「NISAだから」は値動きの言葉ではありません。口座の種類は、株価に何の影響も与えません。

それでも人は口座で出口を変えます。私は変えると思います。だからこそ、意志ではなく設計で止める必要があります。


第5部:設計——買う前に口座を決め、口座で出口を変えない

対策は5つです。どれも「気をつける」ではなく、手が動く前に決着をつける形にしてあります。

①口座は、注文を出す前に決める

トレード記録の記事で、記録は結果の後ではなく買う前の60秒に書くと決めました。理由は、事後に書いた理由には情報が入っていないからです。

口座選びもまったく同じです。「NISAに入れるかどうか」は、買う前に決めて記録する。 買った後に「これは伸びそうだからNISAに移そう」はできませんし(移せません)、「NISAで買ったから長く持とう」は、結果を見てから方針を選び直しているだけです。

買う前の60秒のメモに、1行足すだけで済みます。

②口座が違っても、出口の条件は1文字も変えない

同じ手法で買うなら、損切り価格も利確の考え方も、口座で変えない。これを守れないなら、その手法はNISAに入れないほうがいいという判断になります。

判定は簡単です。「この銘柄が特定口座にあったら、今日この価格で売るか?」 売るなら売る。売らないなら持つ。チキン利食いの記事塩漬けの記事で使ったのと同じ形の問いです。

③NISA枠は「金額の予算」ではなく「回数の予算」として扱う

年6回なら、年6回です。週末のスクリーニングで候補が出たとき、「これはNISAの1枠を使う価値があるか」を追加で1回問う。回数が有限だと知っているだけで、条件が緩むのを止められます

道具の記事で「道具が変えるのは判断を求められる回数だ」と書きました。NISAは制度の側から回数に上限をかけてきます。上限があること自体は、順張りにとって悪い話ではありません。

④「枠を使い切る」を目標にしない

年末が近づくと「今年の枠が余っている」という圧力がかかります。これは現金比率の記事で扱った「現金があるから買ってしまった」とまったく同じ構造です。

枠は締切ではありません。 使い切らなかった枠は消えますが、消えて失うのは前述のとおり最大でも数千円分の期待値です。条件を満たさない銘柄を1本買うほうが高くつきます。

⑤NISAに入れるなら、損切り幅ではなく想定保有期間で選ぶ

第3部の計算のとおり、非課税の価値は1回の買付が生む利益額に比例します。だから、NISA枠を使う価値があるのは「大きく育つ想定で、長く置くつもりの買付」です。

ただし注意が必要で、「長く置くつもり」を後から決めてはいけません。それは処分効果そのものです。買う前に「これは想定保有期間が長い枠だ」と決めておき、値動きが想定を壊したら、想定保有期間にかかわらず出口ルールに従う。順番はここでも同じです。

買う前に確認する4行

注文画面を開く前に、この4行だけ確認します。

□ この注文はどちらの口座か(買う前に決めた/今決めた)
□ 損切り価格はいくらか(口座を変えても同じ価格か)
□ NISAなら、今年あと何回入れられるか
□ 「特定口座にあったら今日この価格で買うか」──はい/いいえ

第6部:先に知っておくべき制度の細かい部分

一次資料ベースで、順張りに関係するものだけ挙げます。いずれも執筆時点の情報です。

配当を非課税で受け取るには受取方式の設定が要る

NISA口座で保有していても、配当金の受取方式が「配当金領収証方式」や「登録配当金受領口座方式・個別銘柄指定方式」だと課税されます。非課税で受け取るには株式数比例配分方式を選ぶ必要があります。

さらに注意点として、日本証券業協会はこう書いています。いったん株式数比例配分方式を選択すると、「同一の証券会社や他の証券会社の特定・一般口座で保有されている全ての上場株式の配当金等についても、自動的に『株式数比例配分方式』が選択されます」。証券会社ごとに別の方式を選ぶことはできません。

NISA口座で信用取引はできない

日本証券業協会のFAQに「NISA口座で信用取引を行うことはできません」とあります。

整理・監理銘柄は成長投資枠の対象外

金融庁の説明にあるとおり、成長投資枠からは整理銘柄・監理銘柄が除外されています。

これは順張りにとっては数少ない朗報です。仕手株・急騰株の記事で「上場廃止リスクのある銘柄は除外条件に入れる」と書きましたが、成長投資枠ではその除外が制度に組み込まれています。ただし、日々公表銘柄や増担保規制の対象銘柄は除外されません52週高値スクリーニングの除外条件は、NISAでも自分で持ち込む必要があります。

1人1口座、金融機関の変更は年単位

「ある年において、NISA口座で新たな投資ができるのは、一人につき1つの金融機関に限られています」(日本証券業協会)。変更は年単位で可能です。

枠の復活は簿価ベース・翌年

売却で復活するのは取得金額(簿価)分であり、値上がり益の分は枠を消費しません。逆に言えば、損切りしても買値の分は翌年満額戻ります。第4部で挙げた「枠が戻らない」という心理は、金額としては正確ではなく、その年の残り回数を1回失うというだけの話です。ここは正確に理解しておくと、判断が少し軽くなります。

制度は変わる

2025年12月に公表された令和8年度税制改正大綱の金融庁関係の項目には、18歳未満へのつみたて投資枠の措置(年間投資枠60万円・非課税保有限度額600万円)などが盛り込まれており、2027年からの適用が予定されています。成人の成長投資枠・つみたて投資枠の年間投資枠については、この記事の執筆時点で変更は示されていません。制度の数値は必ず金融庁・国税庁の最新の公表資料でご確認ください。


それでもNISAで順張りをやっていい場面

対称に扱っておきます。次の場合は、成長投資枠を使うほうが理にかなっていると思います。

  • その手法の期待値がプラスであることを、自分の記録で確認できているとき。 第1部の帰結そのものです。プラスと確認できていない手法にレバレッジをかける理由はありません。件数が30に満たないなら、まだ確認とは呼べません
  • 想定保有期間が長い買付だと、買う前に決めているとき。 決算の裏付けが続く限り乗り続けるつもりの銘柄なら、非課税の対象が大きくなります。ただし「値動きが壊れたら降りる」は変えません
  • 口座の規模が小さく、1銘柄あたりの金額が小さいとき。 表のとおり、総資産100万円なら年19回入れられます。回数の制約はほとんど効きません
  • 課税口座に通算できる利益がない年が続いているとき。 損失の肩代わりが実際には機能していないなら、第1部の比較の前提が崩れます。繰越控除は3年で、しかも毎年連続して申告し続ける必要があります
  • つみたて投資枠と混ぜていないとき。 積立の部分と順張りの部分は、目的も出口ルールも別物です。同じ画面に並ぶと判断が混ざります

共通しているのは、どれも「非課税だから得」ではなく、「自分の手法と制度の形が合っているか」で判断しているということです。


正直に書いておく留保

  1. 筆者は税理士ではありません。 この記事は公表資料を読んで整理したものであり、税務の助言ではありません。個別の取扱い、特に確定申告の要否や複数口座の通算については、必ず税務署または税理士にご確認ください

  2. 第1部の「1.2549倍」は、損益通算が完全に効くという理想的な前提での数字です。 実際には、通算できるのは上場株式等の配当・譲渡益に限られ、通算しきれない損失の繰越は3年、しかも連続した確定申告が必要です。3年以内に取り返せなければ、その損失の控除は失効します。したがって現実の課税口座は、この計算と「まったく肩代わりがない」状態の中間にあります

  3. 「シャープレシオが変わらない」は、無リスク金利をゼロと置いた場合の話です。 また、これは「NISAに意味がない」という主張ではありません。第3部で見たとおり、長期保有では非課税の価値は明確に大きくなります。この記事が言っているのは、短期売買の文脈では、非課税は優遇というよりレバレッジとして働くということだけです

  4. 期待値+0.95%、年7%、勝率35%といった数値はすべて架空の前提です。 チキン利食いの記事で使った例をそのまま流用しており、実測値ではありません。節税額4,632円という数字も、この前提の上でしか成り立ちません

  5. 資金逆算(許容損失1%・損切り−8%)も一例です。 別の設計なら1銘柄あたりの金額が変わり、年間の回数も変わります。ただし「枠が金額で固定されている以上、資産が増えるほど回数が減る」という向きは、どんな設計でも変わりません

  6. 手数料とスプレッドを計算に入れていません。 短期売買では税より手数料のほうが効く局面もあります。この記事は税と枠だけを見ています

  7. 制度は変わります。 税率、枠、対象商品、いずれも執筆時点のものです。第6部に書いたとおり、2027年からの適用が予定されている改正もあります


まとめ

  • NISAは非課税制度であると同時に、損失の肩代わりをやめる制度。国税庁・日本証券業協会は「損失は税務上ないものとされる」と明記している
  • 損益通算が効く課税口座では、税引後の損益は利益も損失も0.79685倍。NISAは1.0倍。つまりNISAは課税口座の1.2549倍
  • 期待値もブレ幅も同率で増えるので、リスクに対する効率は変わらない=実質はレバレッジ。したがって有利なのは期待値がプラスのときだけ
  • 年間投資枠240万円は買付ベースで、売ってもその年は戻らない。総資産300万円・許容損失1%・損切り−8%なら、入れられるのは年6.4回
  • 枠が金額で固定なので、資産が大きいほど回数は減り(1,000万円なら年約1.9回)、節税額は約4,632円で頭打ちになる
  • 非課税の価値は1回の買付が生む利益額に比例する。同じ240万円でも、握った場合と回した場合で約15倍の差が出た
  • 本当のコストは税額ではなく判断の歪み。損切りを1回引っ張るだけで、節税額の**9.7倍(1,000万円なら32.4倍)**を失う
  • 対策は買う前に口座を決め、口座で出口を1文字も変えないこと。判定は「特定口座にあったら、今日この価格で売るか?」

非課税という言葉は強くて、つい「使わないと損」に聞こえます。ただ、計算してみると、成長投資枠でスイングをやったときに手元に残るのは年に数千円でした。そのために出口ルールを1回でも曲げるなら、明らかに割に合いません。

制度に手法を合わせるのではなく、手法に口座を合わせる。順番はいつもと同じです。

次の一歩

次に読む:期待値とトータルで勝つ考え方(記事024)/1銘柄いくら張る?兼業スイングの資金管理(記事014)/利確が早すぎて伸ばせない(記事034)/塩漬け株はこうして生まれる(記事023

あわせて:損切りラインの決め方(記事011)/エントリー前チェックリスト10項目(記事033)/トレード記録のつけ方(記事037)/モメチンに必要な道具一式(記事043


免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・売却・保有を推奨・勧誘するものではありません。また、投資助言・税務助言を行うものでもありません。筆者は税理士ではなく、記載の税制・NISA制度・税率・各種手続きは執筆時点の公表資料に基づくものであり、その後変更されている可能性があります。個別の税務上の取扱いについては、国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて税務署または税理士にご相談ください。本記事の内容は筆者個人の見解に基づくものであり、正確性・完全性を保証するものではありません。記載の計算例はすべて架空の前提に基づくものです。投資には元本割れを含むリスクがあります。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任と判断において行ってください。本記事の情報を利用して生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いません。過去の実績や調査結果は、将来の成果を保証するものではありません。


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